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2008年09月22日(月) 12時00分

「ハイテク義体」の最前線:"通常より強力な人間"も誕生へ?WIRED VISION

ピッツバーグ大学の科学者チームは[2004年]、サルの脳にセンサーを埋め込み、その思考によってロボット・アームを動かす実験に成功した(日本語版記事)。これは、「神経プロテーゼ」という分野における飛躍的な進歩と言える。神経プロテーゼとは、[麻痺性の疾患や損傷などがある]身体障害者にチップをインプラントして、信号を送って動きを誘発するという手法だ。[プロテーゼ(独:Prothese)とは医療用具として、体の中に埋入する人工物のこと]

この研究が進んで飛躍的な進歩の数々がもたらされれば、身体に障害のある人々が「バイオニック」で強力な身体機能を持つ者として再評価される可能性があり、さらには思考で制御する装置の新時代が開かれることになる。

信じられないって? こうした現象は、実はすでに起きているともいえる。

両足の膝から下を切断したOscar Pistorius(オスカー・ピストリウス)氏は、カーボンファイバー製の義足を使っているが、自らを身体障害者とは考えていない。実際、Pistorius氏はすでに世界最速の人物の1人とみなされている。

国際陸上競技連盟(IAAF)もそのことを認めている。というのも、Pistorius氏が北京オリンピックの選考大会に参加を申請したとき、IAAFは即座に拒否した(日本語版過去記事)のだ。[その後、スポーツ仲裁裁判所はIAAFの判断を覆し、健常者のレースに出場することを認める裁定を下したが、結果的には五輪参加標準記録を突破できず北京オリンピック出場は逃した。パラリンピックには出場]

なぜ拒否されたのだろうか? 『Time』誌によると、「(Pistorius氏の)大腿部はブレード状の義足から、足首やふくらはぎの筋肉から受けるよりも大きなエネルギーを受けており……酸素の使用量も少ない」という。つまり、身体的に優位に立ちすぎたために、「身体障害ではない」他の選手たちと競い合えなくなったというわけだ[以下はPistorius氏が走る動画]。

Pistorius氏がここまでの走力を身につけられたのは、その努力に帰する部分が大きいことは事実だが、同氏が生身の足を持つ人々と肩を並べられるようになったのは、この義足の技術があってこそだ。

対等な条件で競技を行なう場合、「バイオニックな人」と生身の人との違いをどのように測定すればよいのだろうか? 現時点で、その測定は不可能だ。

『C-Leg』や『Utah Arm』(以下の紹介文を参照)など、バイオニックの可能性をさらに広げるだろうと見込まれるハイテク義肢術は他にもある。それぞれ、チタンのような耐久性が非常に高い材料や、稲妻のように速い脳の反応時間を正確に再現する強力なチップを採用している。

そして、もし脳が、電流と埋め込まれたチップを経由して身体を動かせるのなら、これを心の動きだけで機器を制御するという構想に発展させたとしても、それほど奇抜な考えとは言えない。こうした機器はすでに電子回路と組み合わされ、正確な命令を受けられるようになっている。後は何をするかだ。(先日は、目を使って音楽プレーヤーの曲を変更するという研究(日本語版記事)を紹介した)

8月に開催された北京オリンピックで、バイオニック・アスリートたちが参加したらどんなレースになっていたかを想像してみよう。Oscar Pistorius氏のような選手が陸上短距離で一緒に走ったり、バスケットボールのChris Paul(クリス・ポール)選手がパスを送ったパワー・フォワードが、腕を伸ばして機械の手でダンクを決めたりしたら、どうなっていただろう?

以下、バイオニックの時代を先導する3種類の有名な義肢・義手を、画像とともに紹介していこう。[以下の動画は、『i-Limb』を装着した人の日常生活を紹介するもの。トランプのシャッフルなども行なっている]

(2)へ続く

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080922-00000004-wvn-sci