記事登録
2008年09月18日(木) 00時00分

「マイスペース」が音楽業界の裾野拡大読売新聞

 マイナーな音楽アーティストでも、SNS上で宣伝や直接販売ができる時代へ——。米国に続いて、日本でもそんな時代が到来しつつある。

SNSがミュージシャンを強力サポート

 世界で2億人以上のユーザーを抱える、米国生まれの巨大SNS「My Space」。その日本法人が7月、アーティスト自身の営業・販売活動をサポートするサービスを開始した。マイスペース日本法人は、音楽関連サービスを手がける新興IT企業「ブレイブ」と提携。同社が持つ「ヴィバース」というオンライン販売機能を、マイスペースの公式サービスとしてアーティストに向けて提供するというものだ。

 これまで、マイスペース(http://www.myspace.com/)日本版にはメジャーから無所属まで、約7万5000組のアーティストが登録。基本的に彼らは、自らのホームページ(アーティストプロフィール)を設け、これをプロモーション活動に使ってきた。しかし今回、ヴィバースの機能が追加されたことにより、アーティストが直接ファンに向けて音楽を有料配信したり、自主制作CDを販売できるようになる。

 この際、アーティストはヴィバース使用料として月額3150円を支払う。また売り上げから経費を差し引いた利益は、アーティストとマイスペース、ブレイブの間で分配することになる。つまり、これまでのマイスペースは、アーティストにとっての単なるプロモーションツールであったが、今後は自主営業用の総合的プラットフォームとなるわけだ。

 これまでも、こうしたSNSは強力な販促効果を持っていた。マイスペースの大蘿淳司社長は「ファンの反応率の高さに驚いている。例えば『たむらぱん』という新人アーティストが、マイスペース上で獲得したファン約1万人に向けて通信販売のみでCDを予約発売。『1000枚も売れれば上出来』と思っていたのが予約で完売し、慌てて追加して最終的には3000〜4000枚が売れた」とその効果を語る。

 今後、SNS上のこうした熱烈なファンのネットワークに向けて、アーティストの音楽の有料配信などが可能となれば、仮にレコード会社と契約していなくても、生計を立てられるかもしれない。

個人による音楽ビジネスも

 これは、音楽産業のすそ野を広げることでもある。ブレイブの殿村裕誠社長は、日本で音楽活動に従事する人たちを左下図のようなピラミッド型に分類する。これまでは頂上に位置する、わずか2000人のアーティストだけが、レコード会社と契約するなどしてプロとして活躍することができた。

 しかし今後は、セミプロ、アマチュア、あるいは音楽を単なる趣味としてとらえている人たちまでもが、SNSを利用して、音楽活動をある程度の収入に結び付けることが可能となる。

「我々のサービスでスーパースターを育てることはできないだろうが、これまで2000人しか参加できなかった市場に、今後は30万〜40万人ものアーティストが参加できるようになるということは、音楽産業にとって計り知れないほど大きな意味を持つ」(殿村社長)

 ネットの発達は、大手レコード会社を頂点とするピラミッド型産業構造から、フラットなコミュニティー型の構造へのシフトに門を開いた。米国ではマドンナやU2など大物アーティストが大手レコード会社を離れ、自らのレーベルを設立。コンサート活動からCDやキャラクター商品の販売までの包括的な契約を、ライブネーションのようなイベント興行会社と交わす例もある。

 日本でも佐野元春が自らのレーベルを立ち上げるなど、音楽制作とプロモーションを自己管理する動きがある。有名、無名を問わず、各人がSNSのようなプロモーションや販売ツールを使うことによって、自分の流儀に従って音楽活動を展開する可能性は大だ。音楽ビジネスの主体が、レコード会社からアーティスト個人へと移行しているのだ。(ジャーナリスト・ 小林雅一/2008年8月24日発売「YOMIURI PC」2008年10月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20080918nt03.htm