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2008年09月15日(月) 18時24分

コンパニオンは○、レースクイーンは×? 日雇い派遣禁止の行方は 産経新聞

 派遣会社から毎日携帯メールで派遣先を指定され、1日単位の雇用契約で働く「日雇い派遣」。低賃金で危険な業務も伴う日雇い派遣は、格差社会を象徴する“ワーキングプア”(働く貧困層)の温床と指摘されてきた。その日雇い派遣の原則禁止を掲げた労働者派遣法改正論議が、大詰めを迎えている。厚生労働省は12日、原則禁止の例外扱いとしてソフトウエア開発、通訳・翻訳など18業務を容認する原案を示した。しかし、経営側からは「規制強化」と反発され、労働側からも「規制の尻抜け」と批判される始末で、「一体誰のための規制か」との声も上がっている。

■日雇い派遣がやり玉に
 労働者派遣法の改正論議は、平成17年から厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会を舞台に始まった。16年3月施行の改正労働者派遣法の点検がねらいだった。だが、審議の過程で建設・港湾労働など禁止業種への違法派遣や労災隠し、派遣料金の不明朗なピンハネなどの不祥事が次々に表面化。挙げ句の果てには、派遣労働者が東京・秋葉原で無差別大量殺人事件を引き起こし、派遣労働者の厳しい生活環境が事件の背景とまで断罪された。

 中でも日雇い派遣は、安全教育が十分に行われない状況で危険業務に携わる低賃金労働として、世の批判のやり玉に挙がった。格差是正を求める与野党双方の圧力を受けた厚労省は、昨夏から「日雇い派遣禁止」の検討を急いだが、労使双方の意見対立で審議は暗礁に乗り上げた。

 厚労省が示した改正案の骨子は、(1)30日以内の日雇い派遣を原則禁止し、労働者保護に問題がない業務に限って認める(2)登録型派遣は常用化を促進(3)派遣労働者の教育訓練と就業機会確保の努力義務(4)グループ企業への派遣人員の割合を8割以下に規制する(5)派遣労働者に適切な教育訓練を実施する−などだ。

■労使双方から批判
 労働者派遣の雇用問題に取り組むNPO法人(特定非営利活動法人)の「派遣労働ネットワーク」の中野麻美理事長は、「拙速な改正より、議論し直した方がよい」という。「改正案は31日以上の契約ならば日々派遣が可能。日雇い派遣を禁止したことにならない」(中野理事長)と憤る。

 改正案は、派遣元が31日以上の雇用契約を派遣労働者と締結し、日々異なる派遣先への派遣が可能な“尻抜け規制”というわけだ。派遣社員の労働組合である派遣ユニオンの関根秀一郎書記長も「派遣労働者保護につながらない“名ばかり改正”」とあきれる。

 一方で、経営側にも強い不満がある。

 経済同友会は「日雇い派遣禁止で雇用機会が失われる人が出る。規制は安全衛生教育強化や危険が伴う業務に限定すべきだ」と規制強化だと主張する。低所得で不安定な雇用形態の改善には、「常用雇用への転換を助ける公的制度導入や、失業保険や健康保険などセーフティネットを日雇い派遣労働者が利用できるようにすることで解決できる」とし、日雇い派遣の禁止では真の問題の解決ではないというわけだ。

 日雇い派遣の利用機会が多い中小企業の全国団体である全国中小企業団体中央会は、会員団体のヒアリング調査を実施した。その結果、製造業では電子機器、製本が、サービス業では引っ越しなど運輸、倉庫、ディスプレー、イベント業の利用が多く、日雇い派遣需要が定着している実態が浮かび上がった。「日雇い派遣禁止するなら、日雇い派遣に代わる仕組みを作って欲しい」(市川隆治専務理事)というのも当然だ。

■レースクイーンはダメ?
 日本商工会議所の佐藤健志・産業政策部副部長は、「全ての日雇い派遣を認めて欲しいという意味ではない」としながら、「30日以内の派遣契約も禁止になれば、例えば理容師・美容師、福祉・医療サービスや運輸業、倉庫業、製造業、農業・水産加工業など広範な業種に影響が出る」と指摘する。


 日雇い派遣を法で禁止しても、現に仕事のニーズがある以上、根絶できるはずもない。厚労省が昨年6〜7月に実施した日雇い派遣労働者へのアンケート調査でも、45・7%が「現在のままが良い」と回答している。日雇い派遣の全面禁止は、こうした労働者の就業機会の減少につながるのは明白で、こうした人への救済措置が不可欠となる。

 結局、経営側から要望が強かった引っ越し業や倉庫内軽作業などは、日雇い派遣が認められなかった。さらに、大まかな業種で線引きしても、具体的な仕事内容で認められるかどうかの判断も難しいのだ。
 例えば、博覧会場の「受付・案内」は日雇い派遣が認められたが、企業の展示イベントなどにつきものの「コンパニオン」は「業務内容次第で微妙」(厚労省)とされ、モータースポーツ会場では不可欠な存在の「レースクイーン」も認められない可能性が高いという。ただ、「開催時期が早くから分かっているはずで、派遣でなく直接雇用で十分対応できる業務では」との見方もあり、レースやイベントの華が全てなくなるわけではなさそうだ。

■新たな官製不況か
 いずれにしろ、派遣業者は「法律が改正されたら、その法律にのっとてビジネスを展開するだけ」(増山浩史フジスタッフホールディングス社長)と静観する構えだ。コンプライアンス(法令順守)の欠如で社会的な指弾を浴びたグッドウィルグループなどとは一線を画し、派遣業界のイメージアップに神経をとがらせているのだ。

 とはいえ、拙速とも言える規制の強化は、対応の不十分な企業からみれば、想定外のコスト増となって業績を悪化させる新たな「官製不況」との恨み節も聞かれる。解散・総選挙が既定路線となった今、その後の政治情勢も不透明で、厚労省が描いた臨時国会での派遣法改正は微妙な状況だ。

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