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2008年09月14日(日) 21時48分

刑務所の職業訓練、様変わり 人気職種の資格取得へバックアップ産経新聞

 セラピストにエステティシャン、スポーツインストラクター…。刑務所で実施されている受刑者への職業訓練が様変わりしつつある。従来は溶接など肉体労働が主流だったが、法務省が最新の雇用情勢を分析し、需要の高い「人気職種」の資格を取得させる方向にも力を入れ始めたからだ。特に民間会社が運営に加わる刑務所では、ユニークな科目が次々と新設されている。出所後の就職先を安定させて再犯率を下げる狙いを秘めたこの作戦、果たして成果は…?

 「骨盤のゆがみを感じ取って。必要最小限の力で押すように」

 今年夏の昼下がり。初犯の受刑者を収容する「播磨社会復帰促進センター」(兵庫県加古川市)の研修室で白衣姿の講師の声が飛んだ。受刑者39人が「推拿(すいな)セラピー」の実習に取り組んでいた。

 推拿とは鍼灸(しんきゅう)、漢方と並ぶ中国三大療法の一つで、骨格のゆがみを取り除き、患者の自然治癒力を高めるマッサージ。近年の「癒しブーム」を背景に同センターが今春、全国で初めて導入した。週4日、半年間の訓練で民間資格が得られるという。

 講師が骨格標本を手に施術方法を説明。受刑者は2人1組になり、ベッドに横たわった相手の骨盤のゆがみを両手で確認していく。表情は真剣そのものだ。40代の受刑者は「体が弱く、出所後も肉体労働は無理。これなら再就職の際に選択肢が広がる」と話した。

 同センターは、民間の資金や経営手法を活用するPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)方式で運営されている刑務所。昨年4月にスタートした。

 現在、国内に3カ所あり、スポーツインストラクターや医療事務など既存の刑務所にはない職業訓練の科目を次々と導入している。

 PFI刑務所でユニークな科目が実現する理由について、ある幹部は「既存の刑務所では、資格取得人数などにノルマがあるが、PFI刑務所は法務省との間で最低限度の目標を定めているだけなので、自由な発想で実験的に新しい科目を取り入れることができる」と話す。

 法務省ではこれに歩調を合わせ、既存施設での訓練科目の多様化を図り始めた。受刑者が出所後5年以内に刑務所に戻る再入所率が近年50%近くで推移していることから、出所後の就職先を安定させることが再犯防止のカギとみて、需要の高い人気職種に着目。女性受刑者を収容する栃木刑務所(栃木県栃木市)では、エステティシャン養成科目を今年から新設した。佐賀少年刑務所(佐賀市)も7月から、コンピューターを使って建築物や工業製品を設計するCAD技術科をスタートさせている。

 刑務所で技官経験がある浜井浩一・龍谷大法科大学院教授(犯罪学)は「時代にあった訓練科目を充実させると、目的意識が高まり生活に張りが出るなどメリットは大きく評価できる。今後は、訓練で得た資格や技能を生かす職業に就けるような、就労支援を一体化したプログラムの構築が必要」と話している。

               ◇

【用語解説】刑務所の職業訓練
 受刑者に職業上有用な知識や技能を習得させて、出所後に社会復帰しやすくするために実施されている。溶接や木材工芸、金属加工など通常の刑務作業と同様の内容で、希望すれば刑務作業の代わりに職業訓練として行うことができる。事前に更生意欲や能力などの適性による選考を行う。期間は3カ月〜1年。

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