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2008年09月12日(金) 00時00分

第2回 唐沢寿明さん読売新聞

 シンガー・ソングライターの松任谷由実さんが、旬の人たちと対談する「yumiyoriな話」。第2回は、大ヒット中の映画「20世紀少年」に主演している唐沢寿明さんをお迎えしました。軽い冗談を交えながらも、お互いの活動の本質に踏み込む興味深い対話が展開されました。(構成・清川仁)

俳優は地味な作業

 松任谷(以下M) テレビも映画も舞台も拝見してます。ほかの役者さんと唐沢さんが違うのは、いい意味でリアリティーがないところ。だから、SFや怪談が似合う。

 唐沢(以下K) それもすごいですね(笑)。話が来れば、何でもやります。「俳優だ」と、胸を張ってるって感じではないなぁ。

  と言っても、(石原)裕次郎さんが言った「男子一生の仕事にあらず」という感覚でもないんでしょう?

  裕次郎さんは大スター。僕にスターの資質はないです。

  言い切っちゃうの?

  街で「あの人、名前わかんないけど俳優だよね」と言われるのが最終目標だったんで、既に目標を失ってる。それが妙な浮遊感になってるのかな(笑)。

  どの器にも入る液体のようとも言えますよね。下積み生活が分厚いので、意欲が高いんだろうな。

  16歳から始めて、食えるようになったのが28歳。「苦労したね」と、よく言われますけど、楽しくて仕方なかった。「仮面ライダー」でショッカーをやるのも、エキストラで出てた「特捜最前線」を、毎週チェックするのも。

  「20世紀少年」や、今までのお仕事を考え合わせたときに、日本のジョニー・デップなのかなって思った。

  僕は、日本のトム・ハンクスなんです。

  スターじゃないって言ったのに(笑)。ルックスじゃなくて、役の入り方というか。

  冗談です。でも、自分がデップだと思ってる俳優はいくらでもいますよ。ドラマ「白い巨塔」に出たとき、「財前の役は、本当はおれだ」って人が結構いたんです。

  カッコいい役だから。

  常に主観で物を見て、全部の役が自分だと思ってる。ミュージシャンは一人の世界で、自分で表現できるから主観でいい。俳優は客観性がないと、台本も自分のところしか読まなくなっちゃう。

  シンガー・ソングライターだと客観性も必要。でも、客観性を持ちすぎちゃうと、壊れやすい魅力がなくなる。両方必要だと思う。

  ミュージシャンは、ギター1本持ってハチ公前で歌えば、人が集まってきますよね。僕が財前の格好して立ってても、途中で飽きられますから。そういう違いは必ずあるんですよね。

  そうですね。

  俳優にとって、スターであるかどうかはあまり関係ない。作品や役と出会う運も、運の周りに散らばってるチャンスをつかむ勘も、必要だと思うんです。

  役を選ぶとき、脚本はご覧になるんですか。

  ない時もあり、運を天に任せることもあります。

  歌手の方が能動的かな。みかん箱一つでも、歌うと言えば歌える。小林幸子さんが病欠したからって、石川さゆりさんが行って成り立つものじゃない。お客さんは、その人を一点集中して見に行くから。待つ仕事の役者とは違うと思う。

  俳優は、その人だけ見る時代は終わっている。作品に出会い、お客さんが納得する演技ができれば、次も期待される。地味な作業です。

  「20世紀少年」のエンドロールで「唐沢寿明」って出て、だいぶ間があって「豊川悦司」って出て、その後、ダーって名だたる人の名前が。唐沢さん、やっぱりスターだって思った。

  もう少し間をあけてほしかったですね(笑)。

  どうせなら(笑)。1作目は、漫画を読んでいない人は、空気感を味わえばいいのかな。

  展開が速いし、原作を知ってても頭を使う。原作に僕だけが似てないんで、ケンヂだと思わせられるのか、ということが挑戦で面白かった。達成感はない役ですよ。僕は風体が普通っぽいから、いろんな役が来るんじゃないですか。

  何か、自分の魅力に気づくまいとしてる?

  生まれが下町だから、照れ屋なんだと思います。

男臭くない 少年

 からさわ・としあき 1963年、東京都生まれ。92年にドラマ「愛という名のもとに」で脚光を浴び、「利家とまつ」「白い巨塔」などに主演。「コリオレイナス」など蜷川幸雄演出の舞台で海外公演も行った。
 映画「20世紀少年」 浦沢直樹の人気漫画が原作。ケンヂ(唐沢寿明)の周囲で謎の教団が動き出し、子供のころ遊びで作った「よげんの書」とそっくりな事件が次々に発生する。来秋にかけ3部作が上映される。

  クセのあるホワイトカラー役の印象が強かったけれど、後天的なものだと知って、納得したんです。

  金持ちの社長とか、僕にないものばっかり。

  染みついてこない?

  いや、ことあるごとに地が出ます。車でもクラクション鳴らす前に窓開けて、「おばあちゃん危ないよ、車通るから」と言っちゃう。鳴らして驚かせたきっかけで、“お迎え”が来たらって気になって(笑)。

  唐沢さんは、早死にしないでくださいね。

  どういう意味ですか(笑)。死にたくないです。

  「白い巨塔」で、同じ財前役を演じた田宮二郎さんを見て、どこかでシンパシー持っちゃうみたいな。

  それはないな。すごくクールだから。

  間近で気づいたのは、手が模型のように細い。

  ちっちゃいんですよ。

  うん、捕獲された火星人みたいな感じ。

  さっきからすごく失礼(笑)。

  私、美大生だったんで、見たままを言っちゃう。

  早死には関係ないですよ。思い出になります。

  死んでって言ってるんじゃないから。こうやって話していても、1枚膜がかかってる感じです。映画でも汗臭くない、男臭くない少年のよう。80歳になっても性別も年齢も分からない怪優の唐沢さんが見たいですね。

  最後に、世の中はどうなってほしいと思いますか。

  いいかげん、戦争はやめた方がいい。この映画のように、ギター1本で立ち向かうっていう精神が今どきない。ニュース見ても、変なのが多すぎます。嫌な気持ちになったときに、親だろうが殺しちゃおうって発想になるのが貧しい。ずっと一人でいれば、情報も経験もなくなってしまう。

  そばにいる人を愛するということすらなくなる。

  人は絶対出会いで成長する。才能があっても、見つけてくれる人に出会えるかどうかだから。マジメなこと言っちゃった。

  照れちゃう?(笑)

  すごく頭痛い(笑)。

(撮影・三輪洋子)

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プロフィル
松任谷由実  (まつとうや・ゆみ)
シンガー・ソングライター。1972年デビュー。
「卒業写真」など、長年愛され続ける曲を世に送り出す。90年のアルバム「天国のドア」は、日本人初の200万枚超えの売り上げを記録した。「松任谷由実・オフィシャルサイト」はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yumiyori/20080912yy01.htm