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2008年09月09日(火) 19時11分

<パラリンピック>自転車で石井選手が金第1号…事故後7年毎日新聞

 【北京・石丸整、飯山太郎】ゴール直後、観客席に右手を高く上げ、人さし指を突き上げた。9日の自転車千メートルタイムトライアルで、石井雅史選手(35)=神奈川県藤沢市=は世界記録を更新し、日本勢第1号の金メダルを獲得した。7年前の事故から立ち直った元競輪選手にとって「自転車は生きる力」。競技場を去る間際、帽子を振って観客席に「ありがとう」と叫んだ。

 藤嶺藤沢高校時代に自転車で国体に出場し、19歳で競輪選手になった。01年夏、練習中に山道で乗用車と衝突。1カ月後に意識が戻ったが、記憶が乱れて「夢の中にいるようだった」という。平衡感覚がなくなり自転車に乗れない。高次脳機能障害と診断され、左脚にもまひが残った。

 入院中、自転車の話ばかりする石井選手。医師は「リハビリになるなら」と病室への自転車持ち込みを許してくれた。婚約したばかりの妻智子さん(34)や仲間の競輪選手に体を支えられ自転車にまたがった。退院後、競輪選手の養成学校に寝泊まりし復帰を目指したが、頭部画像を見た学校医に「絶対に無理」と言われ引退した。

 03年に知人の紹介で日本障害者自転車協会の合宿を見学した。96年アトランタ大会から連続出場している小川睦彦選手(42)がペダルを踏む姿を見て、「必ずパラリンピックに出るぞ」と誓いを立てた。事故の保険金を切り崩しながら、連日練習をした。06年に初参加した国際大会で2位、07年の世界選手権では世界新で優勝した。

 競技の記録は伸びたが、今でも後遺症が出ることがある。7日の三千メートル個人追い抜きでは、IDカードを宿舎に忘れて会場入りが遅れた上、残り周回数を知らせる掲示板を見落としてラストスパートしないままゴール。銀メダルに終わり、「自転車は生きる力なんです」と涙を流した。

 9日のレースは8人中最後に登場。スタート前、日本で応援する妻子や観客席の父親に感謝を込めて、目をつぶり両手を合わせた。「自分一人では絶対にここまで来られなかった。自転車に乗ることに賛成してくれた家族やチームのみんなに感謝している」。顔がほころび、声が弾んだ。

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