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2008年09月09日(火) 00時00分

(1)アカテガニなぜ減った読売新聞

大潮の晩、アカテガニが海の中に入ると体を激しく震わせる。波紋が広がると同時に、おなかに抱えた数万匹の幼生(カニの子)が一斉に放出される(千葉県の南房総で)
日が暮れると、道路を渡り始めるアカテガニ。車にひかれてしまうカニも
アカテガニが生息する森が東京湾に残る(南房総で、本社ヘリから)

 房総半島の海岸近く。森に隠れていた真っ赤なハサミのアカテガニたちが、アスファルトの道路に集まった。大潮の夕暮れ時。数匹が海を目指して行進を始めた。

 甲羅が数センチのこのカニはふだん、森や湿地で生活する。成熟したメスは7月から9月初めの大潮の時期、1ミリほどのゾエア幼生と呼ばれる子ども数万匹をおなかに抱えて海に向かう。海にたどり着くと体を水につけてブルブル震わせ、幼生たちを一斉に海に放つ。

 「カニの数は、昔はこんなもんじゃなかったよ。道路や庭を埋め尽くしたんだ」。千葉県富津市で暮らす棚倉晴夫さん(72)は、昭和30年代の光景を懐かしんだ。当時、海岸道を自転車通勤していて、たくさんのカニをひいてしまったという。

 カニが減り始めたのは昭和40年を過ぎたころ。海岸は埋め立てられ、道路も拡張舗装され、今ではコンクリートの護岸が当たり前になった。「昔の美しかった海岸はどこにもない」。棚倉さんは嘆く。

 アカガニッチョ、アカンペチョ、ボンガニ——。地元で地域によってさまざまな愛称で親しまれてきたアカテガニ。その姿は、いつか消え去ってしまうのだろうか。

(文・ネイチャーズ・プラネット代表 藤原幸一、写真・佐々木紀明)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231220891818042_02/news/20080909-OYT8T00112.htm