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2008年09月09日(火) 12時00分

日本発、太陽光発電を利用する世界初の貨物船WIRED VISION

日本企業2社が、貨物船のディーゼルエンジンを補う太陽光発電システムを開発中だ。この貨物船はトヨタ自動車の新車を米国に運ぶもので、実現すれば『プリウス』に搭載されるというソーラーパネルなどちっぽけに思えるほど、燃料を節約することができる。

このシステムでは、6万トンの船に太陽電池を搭載し、燃費を6.5%削減する計画だ。たったそれだけと思うかもしれないが、平均的な貨物船は1キロメートル進むごとに約282リットルの燃料を消費している。

日本最大の海運会社である日本郵船が、140万ドルをかけて新日本石油と共同開発しているこのシステムでは、日本からカリフォルニアまで約9700キロの距離を自動車を積んで航行した場合、約177.2キロリットルの燃料を節約できるという。

すなわち、太陽電池を乗せた船で運ばれたトヨタの車5000台のうち1台を購入すると、まだ乗ってもいない時点で、すでに約34リットルの燃料を節約したことになる。

英Reuters社の記事によると、日本郵船は、太陽光発電システムの導入によって、二酸化炭素の排出量を年間1〜2%、約20トン削減できると述べているという。

ソーラーパネルはすでに、乗組員が使う電力の供給用として船舶に導入されているが、貨物船の動力源に使うという試みは今回が初めてだ。システムをカモメの害から守る対策だけでなく、塩分や振動の影響にも耐えられるようにしなければならない。

新日本石油の松村幾敏副社長によると、太陽光発電システム搭載船の第1号は、12月までに完成する見込みで、「システムの完全な実用化は3〜5年後」を予定しているという。

太陽電池を搭載した船は、燃料を節約するだけではない。同時に、大気汚染も緩和してくれる。貨物船は「バンカー重油」(船舶用C重油、第6号燃料油とも呼ばれる)を燃やしている。これは、文字通り蒸留塔の底から取れる、非常に質の低い燃料だ。化石燃料界の『Milwaukee's Best』[米Miller Brewing社製ビール。安いことで知られる]といったところだろう。バンカー重油は環境にとっては有害だが、安い価格で目的を十分に果たしてくれる。この点も格安ビールと似ている。

『Environmental Science & Technology』誌で発表された論文によると、貨物船が燃やすバンカー重油の排出ガスは、全世界で[毎年]6万人を死に至らしめている可能性があるという。

その後行なわれた研究でも、カリフォルニア州沿岸部の大気に含まれる微粒子状物質から検出されたサルフェート(硫酸塩:SO4)の、実に44%が船の排出ガスによるものだと判明している。従って、貨物船が燃やすバンカー重油を減らせるものなら、それが何であれ軽視はできない。

[サルフェートは硫黄酸化物の一種。重油中の硫黄分が燃焼することで発生する二酸化硫黄が、さらに大気中で変化したもの。サルフェート粒子は非常に微細なため、空気中に長く留まって長距離を移動し、人間が吸い込むと肺に沈着して健康に害を及ぼすとされる]

日本郵船と新日本石油は、環境問題で他に先んじることができるかもしれない。世界的に、沿岸海域でバンカー重油の使用を禁止する動きが見られるためだ。

カリフォルニア州は当然、いち早く動いており、2009年7月からは、沿岸24海里[約44キロ]の海域でのバンカー重油使用が禁止される。2015年までには、世界中で同様の規制が施行される予定だ。そうなれば、貨物船の運航に、これまで以上の費用が掛かるようになる可能性がある。

貨物船による環境汚染を減らす試みは今回が初めてではない。ごく初期のシステムとしては、古代シュメール人が発明した、風の力で進む帆船が挙げられる。最近ではドイツのSkySails社が、凧を利用したハイブリッド貨物船を開発した[今年1月には大西洋横断の処女航海に出た(日本語版記事)]。この船は数百平方メートルの大きな凧を備え、燃料消費を最大35%節約できる。

北欧の海運会社Wallenius Wilhelmsen Logistics社が行なった設計研究によると、風力および太陽光発電、燃料電池を併用すれば、排出ガスゼロの海運を実現できるという。

燃料価格が高騰し排出基準が厳格化するなかで、新しい技術を導入すれば、海運会社は貨物船の運行コストを節減できるだけでなく、排出ガスを減らし、車の購入者に環境への貢献機会を提供することも可能になる。

しかし、最新技術を備えていない船も、速度を落とすだけで燃料を節約することはできる。[かつてオイルショックの影響により、ガソリン消費を減らすために米国のハイウェーの]制限速度が55マイル[約88キロ]に引き下げられたように。

船では、2ノット[時速約3.7キロ]下げれば、燃費は最大で5%向上するという。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080909-00000004-wvn-sci