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2008年09月08日(月) 12時00分

「ジョブズ氏のメール」は本物か:用語や文法から真偽を探るWIRED VISION

Brian X. Chen

最近、米Apple社の最高経営責任者(CEO)であるSteve Jobs氏から電子メールを受け取ったと言う顧客たちのことが報道されている。

だが、ワイアード・ニュースが分析したところでは、問題の電子メールが本物かどうかは疑わしい。

Jobs氏からの電子メールとは、具体的には、『MacRumors』の読者が、『iPhone 3G』のネットワーク問題に関する手紙に対してJobs氏から返事があったと主張したものだ。また、『Gizmodo』の読者は、Jobs氏が、iPhoneの「テザリング(Tethering)」[携帯電話を繋いでPCから携帯電話のワイヤレス・インターネット接続を利用できるようにする]機能を提供する計画を匂わせる電子メールを送ってきたと主張している。

また、これらのほか、Jobs氏が送ったとされている『iPod Touch』に関する3通目の電子メールも存在する。

Jobs氏が送ったと報道されているこれらの電子メールは、文は短いが、Apple社の今後の計画に関する情報を明かしている。Apple社は徹底した秘密主義なので、これは同社らしからぬことだ。多くのブログやニュースサイトがこれらの電子メールについてとり上げ、Jobs氏本人が直接送ったものであるかのように、この「事実」を広めた。

MacRumorsの読者に届いたとされる電子メールには、iPhone 3Gのバグを修正してネットワーク問題を解決すると書かれていた。この電子メールをきっかけに、iPhone 3Gの機器がネットワークの接続問題の原因であるという憶測が広まった。だが、時がたつにつれて、iPhone 3Gよりも3Gネットワークそのもののほうがネットワーク関連の問題に密接に関係していることを示す証拠が増えている(日本語版記事)。

われわれは、前述の3通の電子メールと、Jobs氏が書いたことが確認されている電子メール3通をサンプルとして選んだものについて、文体と文法を慎重に比較した。

本物であることがすでに証明済みの電子メールのサンプルとして選んだのは、Jobs氏のiPhoneユーザー宛ての公開書簡と、Jobs氏が社員に送った『MobileMe』に関する社内電子メール、そして、Jobs氏が社員に送った、性能面で米Dell社を上回ったことに関するもう1通の社内電子メールだ。

ワイアード・ニュースの原稿整理担当の編集者たちと、カリフォルニア大学デービス校言語学部の学部長であるPatrick Farrell教授の手を借りて、われわれは、顧客に送られたと報告があった電子メールには、初歩的な文法上の誤りがあることを発見した。

Jobs氏が書いた本物の電子メールには、こうした誤りはない。Jobs氏は、問題の電子メールが示唆しているよりも、もっと英語が流暢だ。

[原文には細かな検証があるが、(1)thatという関係代名詞を使うべきところでwhichを使っている(2)不必要なコンマがある(3)不要な重複主語を入れている(4)結びの言葉がいつもと違う、という内容]

本物か偽物か

Farrell教授は、Jobs氏が書いたことが証明されている電子メールから、同氏が英語の文章を非常によく理解していることがわかると指摘している。文法的に正しく、文章構造が優れているというのだ。

「どの電子メールも、文法的に正しく、ネイティブで標準的な英語だ」とFarrell教授。

ただし、短い電子メール3通だけでは証拠として薄弱で、結論を出すことはできないという。

「3通の疑問のある電子メールが、偽物だと信じるに足る明白な証拠はない。もっと長い電子メールか何か、より多くの証拠となるものが必要だと思う」とFarrell教授は言う。

3通の読者宛ての電子メールのうち、もっとも確からしく見えるのはGizmodoのものだ。GizmodoのMark Wilson氏は、ヘッダのIPアドレスをたどるとApple本社につながると説明している。

「この情報は信憑性がある、とかなり確信している」とWilson氏は電子メールの中で書いている。「Jobs氏がときどき本当に顧客にこういう電子メールを送っていることを私は知っている。それに情報源からは、おかしな悪ふざけをするような子どもじみた雰囲気は受けなかった。彼らは、IPを含む、電子メール情報全部を公開している」

一方、いちばん怪しく見えるのは、「which」の用法が間違っているMacRumorsの電子メールだ。実際に、ソフトウェア・アップデートで3Gネットワーク問題が解決するというその主張は、真実ではないことが明らかになってきている。

Apple社とMacRumorsにコメントを求めたが、回答はなかった。

[過去記事「文章の特徴を分析して個人を特定するプログラム」では、「執筆者1人1人を、文章のスタイルから特定し、追跡する」というアリゾナ大学の『Dark Web』プロジェクトについて紹介している]

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080908-00000001-wvn-sci