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2008年09月08日(月) 23時07分

【JR脱線事故】「いばらの道」振り返る捜査員 3年半に及んだ捜査産経新聞

 兵庫県警はJR西日本関係者10人の書類送検という答えを出した。電車に乗り合わせただけの乗客が犠牲になった重い結果と、個人の過失を問う業務上過失致死傷罪の適用の難しさの間で、ぎりぎりの選択の結果だった。「幹部立件か見送りか。どちらを選ぶにしてもいばらの道だった」。県警幹部はこう振り返った。
 今年7月25日。尼崎市内の警察施設で県警の聴取に対しJR西の山崎正夫社長(65)は、「あのカーブで事故が起きるとは思わなかった」と言い切った。
 昨年11月の参考人聴取と異なり、この日は被疑者としての聴取だけに、捜査員の声も厳しさを増し、山崎社長はいらだった様子もみせたという。
 捜査本部は信楽高原鉄道事故(平成3年)や、日航ジャンボ機墜落事故(昭和60年)など過去の大規模事故を担当した他県警の捜査員にノウハウを学ぶことからはじめ、これまでにJR西社員500人以上から事情聴取。他の鉄道会社や学識経験者50人以上からも説明を求め、あらゆる角度からの検証を尽くした。
 それでも捜査本部は事故後しばらく、立件を前提とした山崎社長の被疑者としての聴取は想定していなかった。個人の過失を問う業務上過失致死傷罪の適用には「壁」があったからだ。
 今年2月、停滞していた捜査に転機が訪れた。遺族の1人が、現場カーブの付け替え時に自動列車停止装置(ATS)を設置しなかった過失を問い、山崎社長ら3人の告訴状を提出。3月には別の遺族が、別の安全対策部門の幹部を含む7人を告訴した。
 刑事訴訟法は、警察が告訴を受理した場合、書類を検察庁に送付(送検)しなければならないと定める。この告訴で、送検を前提とした捜査が可能となった。
 捜査本部にとって、2つの告訴は「追い風」。「立件を目指して捜査を進めてきたが、正直なところ告訴が出たことで半分は肩の荷が下りた気がした」。ある捜査幹部は、告訴状を目にした瞬間の胸中を率直に明かした。

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