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2008年09月08日(月) 22時19分

【JR脱線事故】スピードに活路求めたJR西 信頼回復なるか産経新聞

 JR西日本の福知山線の脱線事故の背景には、「複々線」と呼ばれる上下線2本ずつの線路を使って、スピード競争で私鉄各社に打ち勝ってきた歴史がある。山崎正夫社長は8日の記者会見で「安全を抜きにしたスピード競争をしてきたつもりはなく、許されることでもない」と語ったが、安全と収益の確保を目指していかに改革を進めるか、経営姿勢が問われそうだ。
 JR東日本と私鉄各社の路線がすみ分けされる首都圏と違い、「私鉄王国」の関西では京都−大阪−神戸の主要都市間を中心に私鉄と路線が競合している。旧国鉄はスピードが遅かったうえに運行本数が少なく、運賃も割高で、関西圏の輸送人員シェアで私鉄5社に水をあけられていた。
 しかし、昭和62年4月の旧国鉄の分割民営化で事情は変わる。JR西は京阪神近郊区間を「アーバンネットワーク」と命名し、収益基盤とした。平成11年に始めた「130キロ走行・大阪−三ノ宮19分」のダイヤは同社の“金看板”となり、JR発足当時、25%だった関西圏の輸送人員シェアは平成15年度で32.2%まで跳ね上がった。
 JR西の「高速ダイヤ」を推し進めたのが社長、会長を歴任した井手正敬氏。「国鉄改革3人組」の1人で、分割民営化の立役者だった。その井手氏のスピードへの情熱を象徴するエピソードがある。
 大阪市に米映画テーマパーク、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が開業する半月前の13年3月。大阪駅からUSJ最寄りのユニバーサルシティ駅までの所要時間を「13分」とするダイヤ改正案を示す鉄道本部に、井手氏が雷を落とした。
 「お客さまの立場で考えないとダメだ」
 鉄道本部は急遽(きゅうきょ)、ダイヤの見直しに着手。2週間後、「10分」とする案が了承された。
 アーバンネットワークで運輸収入の4割を稼ぎ出すドル箱路線に成長させた功労者が井手氏であるのは、間違いない。収益力向上の「特効薬」を見いだした格好だが、運輸収入は8年をピークに減少に転じ、JR西はさらなるスピードアップに活路を求めていく。焦りが余裕を失わせたのか。脱線事故が起きたのは、そうした矢先だった。
 現在、大阪−三ノ宮間の新快速は「22分」、大阪−ユニバーサルシティ間は当初の所要時間の「13分」とゆとりを持たせたダイヤで運行されている。
 事故の責任を取って、井手氏は取締役相談役を退任し、顧問就任も辞退した。「井手商会」とまで揶揄(やゆ)されたJR西。安全を最優先する企業として利用者の信頼を取り戻す道のりは険しい。

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