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2008年09月05日(金) 00時00分

<上>「正当防衛?量刑重い?」記者6人が議論難航読売新聞

資料を見ながら、量刑について話し合う裁判員役の記者たち。中央は平島裁判長(鹿児島地裁で)

 裁判員制度が来年5月にスタートする。県内からも裁判員候補として2300人が選ばれ、11月にもそれぞれに通知が届く。法律の素人である市井の人々が、人を裁くことが出来るのだろうか。鹿児島地裁が8月、報道記者を対象に開いた模擬裁判に参加した体験を基に考えてみた。

 模擬裁判で体験したのは、量刑を決める「評議」という手続きだ。実際の裁判では裁判員が法廷で被告人に質問する場面もあるが、今回はこれをDVDを鑑賞することで省略した。

 今回、審理したのは架空の殺人事件。東京都内の駅で夕方、電車に乗っていた男(27)がトラブルとなった男性(27)をナイフで刺し殺したという事件で、男は逮捕、殺人と銃刀法違反罪で起訴された。

 争点は、被告となった男の正当防衛が成り立つかどうかだった。

 弁護側は「被害者の男性は、被告を階段から突き落として殴るなどしたうえ、一緒にいた妊娠3か月の被告の妻(22)にも暴行を加えた。被告の行為は正当防衛に当たる」と主張。検察側は「被告がナイフで刺した時、被害者は背を向けて立ち去ろうとしていた。正当防衛には当たらない」と反論した。

 裁判員となったのは記者6人。鹿児島地裁3階の評議室で、地裁の刑事部長でもある平島正道裁判長(44)と、任官1年目で普段は民事裁判を担当する渡辺春佳裁判官(29)とともに長円形のテーブルを囲んだ。

 まず考えたことは、身重の妻ともども、執拗な暴力にさらされていた被告が冷静な判断ができるかということだった。むしろ、更なる暴力への恐怖が、反撃を選ばせたといえるのではないのか。

 その疑問を口にすると、渡辺裁判官は「正当防衛と同じで罪には問えません。このような状況を『誤想』正当防衛といいます」と解説してくれた。一方、平島裁判長はこうも指摘した。「素手の相手にナイフで反撃した。これが正当と言えるでしょうか」。言われてみれば、確かにそうともいえる。様々の見方があり、「もう少し考えてみよう」と思い直した。

 結局、裁判員6人の意見は、「被告は『誤想』の状態に置かれた過剰防衛」ということで一致し、議論は量刑に移った。検察側の求刑は8年。「誤想」状態での過剰防衛による殺人を裁いたこれまでの判例を示した「分布表」が配られた。これによると判決は、「懲役8年」「同5年」「同3年と執行猶予」がほぼ同数で並んでいた。

 ある裁判員は「人を殺したという結果をもっと重く見るべき」と主張。逆に「生まれる子どものことを考えると、求刑は長すぎる。短くてもいいのでは」という意見もあった。

 プロの判断も聞きたいと水を向けた。平島裁判長は「被告は胸をひと突きにしており、強い殺意を感じる。個人的な意見だが、量刑は、犯行の結果や手口、直接の動機を中心に判断することにしている。家庭の事情などの材料を中心に据えるのは公平ではない」と述べた。

 議論を再開し、目撃証言を検証してみた。被告はナイフを持った両腕を伸ばし、頭から被害者にぶつかっていったとされる。「ナイフがどこに刺さるか分かる状態ではなかったのではないか」と発言したところ、皆もうなずいてくれた。

 「5年が適当かも知れない」という意見が出て、より重い刑を求めていた裁判員も賛成した。裁判官たちも同意し、全員一致で懲役5年の判決に決まった。(角亮太)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/kagoshima/feature/kagoshima1220539955913_02/news/20080904-OYT8T00935.htm