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2008年09月04日(木) 18時49分

スマートフォン戦線異常あり iPhone失速、ドコモ攻勢産経新聞

 パソコンの要素を取り入れ、データ通信やインターネット閲覧機能に優れた高性能の携帯電話「スマートフォン」の市場が目まぐるしく動いている。ソフトバンクモバイルが7月に発売した米アップル製「iPhone(アイフォーン)3G」は、注目は集めたものの急失速。一方、NTTドコモやイー・モバイルの攻勢も関心を集めている。携帯電話が国内で1億台も普及した中、各携帯事業者はスマートフォンで新たな需要を喚起しようとしている。(上野嘉之)

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 ≪アップル“敗戦”≫
 日本では100万台売れる−との予測もあったアイフォーンに、もはや当初の勢いはない。アップルとソフトバンクは販売実績を極秘にしているが、通信業界に詳しいUBS証券の乾牧夫シニアアナリストは「20万台前後で止まっている感がある」と推測。年内販売は控えめに35万台程度と見積もっていたが、それにも及ばない情勢という。
 アイフォーンは、タッチパネル式大型液晶画面による斬新な操作性▽インターネット閲覧の容易さ▽未来的なデザイン▽音楽プレーヤーを一体化した利便性−などが魅力だった。しかし、絵文字が使えず、おサイフケータイ、ワンセグ放送受信機も搭載されていない。アイフォーンに買い替えると携帯メールのアドレスが変わってしまうことや、電池の持続力の短さなども災いし、購入層はアップル製品の愛好者などにとどまっているもようだ。
 乾氏は「新しい提案のある製品だが、日本向けに手直しせず発売した点で市場を見誤っていた。一定のヒットはしたが、戦後処理も必要な段階だ」とアイフォーン商戦を総括。携帯が電話とメール機能にとどまっていた欧米と異なり、「日本はすでにネット閲覧や音楽再生機能を盛り込んでいる。アイフォーンの新規性は薄い」と市場環境の相違を指摘した。
 ≪利用のすそ野拡大≫
 とはいえ、アイフォーン以外にも多数の機種が投入され、市場は活気づいている。
 業界最大手のドコモは、スマートフォンはパソコン向け文書を閲覧・操作できるため、「ビジネス利用が中心」との戦略で販売を強化した。主力機種は、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)製「ブラックベリー」。小さなキーボードを備えた外観が特徴で、世界で約1500万台を販売、米国ではアイフォーンを上回る販売シェアを維持している。
 その強みは、法人契約の場合、専用サーバーを経由して強固なセキュリティーを確保、企業内メールも安全に送受信できることだ。「出張先でもバカンス中でも、どこでも会社のメールで意思決定に参加できる」(外資系企業社員)という。
 ドコモは2006年9月、法人専用サービスとしてブラックベリーの英語版を発売し、外資系企業などが導入。昨年7月には日本語版も投入した。さらに今年8月に個人でも契約できるようにし、9月からは割安な通信料金プランも設定、利用のすそ野を広げつつある。
 昨年3月に携帯市場に参入したイー・モバイルは今年3月、台湾HTC製スマートフォンを主力に据えた。米マイクロソフトのOS(基本ソフト)を搭載してパソコン連携に優れ、同社の契約者数急伸の立役者となっている。PHSのウィルコムは05年12月に日本で初めてのスマートフォンを投入。国内販売実績ではシェア約7割を占め、シャープ製端末は使いやすさに定評がある。
 ≪参入続々≫
 スマートフォンを未発売のKDDIも年内に参入予定。ドコモなどの回線を借りて通信事業を営む日本通信も、9月に参入する方針だ。
 メーカー側の動きも急だ。携帯世界シェア2位の韓国サムスン電子は、今夏、海外発売した最新製品「オムニア」の日本投入を狙う。ドコモ、ソフトバンク、ウィルコムの3社を通じて販売するHTCは、さらに機種を増やそうと働きかけている。
 来年はKDDI系のUQコミュニケーションズが次世代高速無線WiMAX(ワイマックス)方式を、ウィルコムが次世代PHS方式の「ウィルコム コア」を商用化する予定だ。いずれも通信速度が現在の携帯の数倍にあたる毎秒最大20メガビット程度へ向上する。両社ともスマートフォンを含む情報端末の発売を検討しており、市場の活性化がいっそう進みそうだ。
                    ◇
 ■通信料金の低廉化が課題
 日本の携帯電話は端末、サービスともに音楽、映像といった娯楽機能が充実し、ユーザーの利用も広がっている。前評判の高かったアイフォーンは決定的な優位性を示すことができず、爆発的ヒットには結びつかなかった。この結果、スマートフォン市場は当面、ビジネス需要が中心になるとの見方が強まってきた。
 実際、ドコモやウィルコムは法人契約獲得に注力しており、ソフトバンクも、孫正義社長が自らアイフォーンの企業向けPRに乗り出す予定だ。
 ビジネスの世界では目新しさよりも実用性が重視され、キー入力のしやすさ、電池の持続性、信頼性などで海外のビジネスマンに浸透したブラックベリー、HTC製端末に一日の長がある。日本メーカーもシャープ、富士通、NEC、東芝などが製品を投入しており、一般の携帯端末以上に国際競争が進んでいる。
 ただ、スマートフォンがデータ通信、インターネット閲覧機能を存分に発揮するためには、データ通信料金の低廉化が欠かせない。
 携帯各社は昨年来、データ通信料金に上限数千円の定額制を相次いで導入。ソフトバンクはアイフォーン販売のテコ入れも兼ねて、発売後2カ月間で2度も料金を引き下げた。今後もスマートフォン向け新料金や割引プランが、普及促進の引き金となりそうだ。
 一方、最近は手のひらサイズの超小型パソコンが売れ行きを伸ばしている。スマートフォンとすみ分けができるのか、それとも、同じ商品分野として競合するのか。今後の市場動向を左右しそうだ。

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