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2008年09月03日(水) 22時23分

「PMDAに医師の増員を」検討会委員が視察医療介護CBニュース

 「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」(座長=寺野彰・独協医科大学長)は9月3日、組織体制について見直しや充実などさまざまな意見がある医薬品医療機器総合機構(PMDA)を視察した。視察後の意見交換で委員からは、「職員に医師が足りない」「職員は本当に大変な仕事を頑張っているが、人手が足りない」など、PMDAを充実させるための職員の増員や、医学教育についての要望などが出た。

 同委員会では、薬害の再発防止対策を実施していくため、安全対策を国が、副作用報告にかかわる業務をPMDAが実施している現在の体制を見直す必要があるとして、これまで4回の会合を重ねてきた。前回の会合でまとまった中間取りまとめでは、市販後の医薬品の安全対策を充実させていくための新しい組織の在り方として、「承認審査、安全対策、副作用被害救済などの業務を一括して」厚生労働省医薬食品局(別組織もあり得るとした)が担うか、PMDAが担うかの両論を併記し、今後の検討課題としている。また会合で、医薬品行政を監視する独立した組織を求める意見があったことも記載されている。

 こうした議論を経て、今回は委員が東京都千代田区のPMDAを視察。予定していた2時間15分を1時間半も上回る訪問となり、委員たちは熱心に見学し、意見交換した。

 視察ではまず、PMDAからの概況説明の後、前回の会合で委員から「意味が分からない」と指摘のあった「ファーマコゲノミクス」などについて説明があった。ほかにも「データマイニング」や「疫学と薬剤疫学」などのテーマで解説があった。

■「やっている人を尊敬する」
 その後、委員は二班に分かれ、1時間半にわたってPMDA内部を視察。健康被害救済部、一般薬等審査部、新薬審査第一部、治験相談室、安全部、品質管理部、医療機器審査部、生物系審査第二部をそれぞれ回った。

 安全部では、製薬企業などから上がってきた副作用報告について、薬剤の種類などによって分かれている7、8人のチームが毎日、分析・評価を行っていると説明された。職員がパソコン上に表示されている副作用報告のデータベース画面について解説。報告内容が細かく記載されており、企業から追加報告が上がってくると、画面上に別の色で表示され、同じ薬について上がってきた報告については週に一度、「ラインデータ」として集積結果を示しているとした。この職員は、「毎日100件ぐらいの報告がチームに上がってくるので、めりはりを付けて見ていかなければならない」と話した。こうした説明を受けて森嶌昭夫座長代理(日本気候政策センター理事長)は、「このような仕事はわたしなら3日もすれば嫌になってしまう。ミスは許されないし、神経を使う。やっている人を尊敬する。こういう人たちを大事にしなければ」と、職員たちを激励した。

 また、品質管理部では、承認申請のあった医薬品・医療機器の品質などについて調査するため、職員が国内外を回っていると説明された。森嶌座長代理は「会議が多い部署もあれば、労働が多い部署もある。出張に行って帰って来るだけでも大変ではないか」と述べた。これに対し、厚労省の担当者は「最近ではテロなどがあれば、目的地まで到達できないこともある。グローバル化にはこういう負荷もあり、リスクの拾い込みをするにも予測がつかない状況だ」と答えた。森嶌座長代理はまた、「いろいろなことを言う消費者がいるが、何かをやるにはコスト負担があるということを知らなければならない。そのためにも情報を出していくことが大事」と述べ、担当者は「PMDAになってからはこのように仕事を定型化できるようになったので、こうして説明もできるようになった。だが、厚労省内で(承認審査などを)いっしょくたにやっていた時なら、とてもじゃないができなかった」などと応じた。1997年以前は厚労省内局で承認審査などを実施していた。

■「全体的に医師が不足」
 視察後の意見交換では、水口真寿美委員(弁護士)が、「安全対策室に医師がいないが、審査時の問題意識を持ってフィードバックしていくには医師が関与していく必要があるのでは。全体的に医師が不足していると感じる」と述べた。PMDAの近藤達也理事長はこれに対し、「一般的に多くの病院でも治験などに関心が持たれていないので、病院や大学などにいる医師に、治験や臨床研究の本来の在り方を正しく理解してほしい。臨床研究が国際的なスタンダードから外れてしまっているものが多い。臨床現場の医師に、当組織に『留学』してもらい、薬学の専門家とディスカッションをして勉強し、大学や病院に戻ってほしい」と答え、医師がこうした知識を持った上で、PMDAについて知られていくことが必要とした。
 泉祐子委員(薬害肝炎全国原告団)は「職員の皆さんはとても頑張っていると思った。だが人員が足りない。医学部にも薬剤疫学などを学べるカリキュラムがないのが問題だ。未来にわたってPMDAに関心を持ってもらえるよう、厚労省と文部科学省で一緒に検討してほしい」と要望。大熊由紀子委員(国際医療福祉大大学院教授)も「臨床で役に立つ薬の話が医学教育の中で語られていないように思うので発信してほしい」と後押しした。

 水口委員は、「機構の方から『これがやりたいけどできない』と言ってもらえれば、わたしたちもお願いしていきたい」と述べた。
 福田衣里子委員(薬害肝炎全国原告団)も、中間取りまとめに安全対策全体で「最低300人は必要」と記載されていることに関連して、「現場が一番大事だが、わたしたちには分からないことがほとんど。『300人』と取りまとめたが、それでいいかどうか分からない。職員にアンケートを取って、『こういうことを導入してほしい』など、現場の声をまとめてもらえれば」と述べた。


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