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2008年09月02日(火) 12時14分

メリルの“飛ばし”と米銀の苦境オーマイニュース

 米国の大手投資銀行株が相変わらず低迷している。JPモルガンがベア・スターンズを買収した今年3月17日以降、投資銀行を取り巻く環境は厳しさを増しており、大手投資銀行株もじりじりと下がっていく一方である。

 そんな投資銀行の苦境をくっきりと示す取引の1例が、少し前にあった。7月28日、メリルリンチが行った取引だ。

 メリルリンチの自社サイト内のアナウンスによると、メリルは額面306億ドルの「スーパーシニアABS CDO」と呼ばれる証券化商品を、67億ドルで、ローンスターファンドの関連会社に売却した。ローンスターとは、日本の東京スター銀行の筆頭株主でもある米国の投資ファンド会社だ。

 この取引には、興味深い点がいくつかある。

 まず、メリルが保有していた不良資産が簿価(額面)のわずか22%で売却した点だ。「スーパーシニアABS CDO」とは、図で示すと、「ハイグレードABS CDO」のなかでも、もっとも安全性が高いはずのものだった。その価値が、もう8割毀損(きそん)しているらしいのだ。それより安全性の低い商品の今の価値は、推して知るべし、ということになる。

 さらに、興味深いのは、メリルはこの取引で、売却代金の75%に当たる50億ドルを、ローンスターに融資していることだ。つまり、メリルはローンスターに50億円を貸し、ローンスターはその借りた50億ドルに自分たち17億ドルを足して、合計67億ドルで、不良債権を買ったのだ。

 それだけではない。ローンスターがこの50億ドルを、メリルに返済できなかった場合どうなるか。その場合、ローンスターが今回買い取った不良債権が、そのままメリルに戻ることになるのだ。

 ローンスターが50億ドルを返済できない場合とは、どういうときか。それは持っている債務担保証券(CDO)が十分な収入を得られないときである。そのとき、CDO資産の価値はさらに下がっているに決まっている。今よりも価値の下がっているCDOを、メリルは担保として引き取るのだ。

 要するに、メリルは実質17億ドル(=67億−50億)、つまり簿価の5%で不良債権を手放したことになるのである。

 なんとも不思議な取引である。

 メリルにとって、この売却により、306億ドルあった不良債権が、50億ドルのローンスターへの「優良?」貸し付けに変わったことになる。また保有していた「スーパーシニアABS CDO」の残高が、88億ドルにまで減少する。このうち72億ドルはMBIAや他の取引相手から保証を受けているので、実質的な残高は16億ドルにまで下がる。それはいい。

 また、306億ドルのものを67億ドルで売却し、差額を損失計上するので、この点も問題ない。

 しかし、日本の資産バブル後に見られた「飛ばし」に似た損失先送り行為を、大手投資銀行がやっているのだ。これでは株価は上がらないだろう。

 冒頭でも述べたが、米国の金融機関は相変わらず苦境に立たされており、株価も会社によっては昨年比、80%以上下がっているところも結構ある。

 これからも、こうした金融機関の動向を検証し、報告していきたい。

(記者:岩本 麻人)

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