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2008年08月30日(土) 12時58分

どうなる 値上げの行方 コストと売り上げの板挟み産経新聞

 7月の全国消費者物価指数(CPI)が前年同月比2・4%のプラスと16年ぶりの高水準を記録した。ガソリンなどのエネルギー価格は、国際市況の下落で9月から値下げに転じるが、食品値上げはまだ続く一方で、家電や自動車など耐久消費財にも値上げの動きが広がっている。ただ、値上げラッシュによる節約志向で消費が冷え込んでおり、逆に値下げに踏み切る動きも出ている。企業側は、コストと売れ行きを天秤(てんびん)にかけた難しい判断を迫られている。(企業取材班)
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 ■エネルギー/9月以降から価格乱高下
 ガソリンや電気・ガスなどのエネルギー価格は、9月以降、値上げと値下げが交錯する。一本調子で上昇してきたガソリンの卸値は9月に値下がりする。電気料金は一部で9月に値下げされるが、来年1月以降は大幅に上がり、ガス料金も10月に値上げされる。
 新日本石油は9月のガソリンの卸価格を1年10カ月ぶりに1リットル当たり5・1円値下げする。ジャパンエナジーが5円、昭和シェル石油は7・3円引き下げる。下げ幅はいずれも過去最大となる。
 石油情報センターの調査では、25日時点のレギュラーガソリンの全国平均店頭価格は1リットルあたり181・7円で、9月は170円台後半に下落する見通しだ。
 値下げの店頭価格への波及は遅いといわれているが、「これまでの値上がりでクルマ離れが加速しており、お客を呼び戻すため、値下げ合戦が激化するのでは」(業界関係者)との声も出ている。
 電気料金は、9月に電力8社が料金制度見直しを実施し、関西電力など5社が値下げし、東京電力など3社は据え置く。10月は今年4〜6月の原油価格を料金に反映させる「燃料調整制度」の見直し時期となるが、8社は値上げを見送り、中部、北陸の2社が値上げする。
 全10社とも1月は7〜9月の原油価格を反映させた料金改定を行い、東電では原油の平均価格が1バレル=130ドルで推移した場合、標準家庭で月800円程度の大幅な値上げとなる。
 ガス料金も調整制度に基づき、10月から東京ガスの場合で月120円の値上げとなる。
 光熱費の高止まりが続くことで、家計の節約志向は一段と強まりそうだ。
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 ■食料品/来年前半まで上昇トレンド
 食料品は、足元で穀物相場が下落しているものの、9月も値上げラッシュが続く。原料費の高騰が製品価格に波及するまでに、タイムラグが生じるためで、「最終的に商品に価格転嫁されるまでには1年程度かかる」(業界関係者)との声も出ている。
 9月は大手ビール4社で缶製品の値上げを唯一先送りしていたサントリーも追随。乳製品のほか、冷凍食品なども値上がりする。
 さらに10月には輸入小麦の政府売り渡し価格の引き上げも控える。政府の総合経済対策で、引き上げ幅は本来の調達コストを反映させた20%程度から圧縮されるが、それでも、食品メーカーは「(商品価格を)値上げせざるを得ない」(日清食品の安藤宏基社長)としており、めん類や食パン、菓子類の再値上げは避けられない見通しだ。
 一部には、値上げによる消費者離れを懸念し、「再値上げ見送り」を探る動きもある。
 ただ、食品業界に詳しい野村証券の山口慶子シニアアナリストは「なお高水準で推移している原材料価格を考慮すると、値上げによる売り上げの減少よりも、コスト高の方が減益要因として重い」と指摘する。
 ファミリーレストランのデニーズは、客足の落ち込みから一部メニューの値下げに踏み切ったが、こうした動きはまだ限定的。思惑通り、値下げで売り上げを伸ばし、コスト増を吸収できるかも未知数だ。
 合理化や販促費の削減など、企業の自助努力による吸収はどこも限界に達している。
 穀物相場が調整色を強めているとはいえ、なお高水準にあり、今後も高止まりが続くとみられている。
 このため、「少なくとも来年前半まで値上げのトレンドが続く」(証券アナリスト)との見方が大勢だ。
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 ■耐久消費財/一般乗用車への波及焦点に
 トヨタ自動車に続き、日産自動車も一部商用車の値上げに踏み切ったが、今後は一般の乗用車にまで波及するかがカギとなる。
 トヨタは乗用車の値上げは、プリウスなどハイブリッド2車種に限定。“追随”を期待していた日産などは“肩すかし”をくらう形となり、ライバル他社も幅広い車種の乗用車の値上げは見送らざるを得ない状況だ。
 「1%の値上げで1%の販売台数が落ち込む」(関係者)といわれるだけに、トヨタも含め、各社とも慎重だ。ただ、「手をこまねいていると、業界全体が苦しむ」(大手首脳)と、なおプライスリーダーのトヨタに期待する声は大きい。我慢比べが限界に達し、乗用車値上げに踏み切る可能性は否定できない。
 冷蔵庫やエアコンの値上げ表明が相次いでいる家電では、薄型テレビなどの主力製品に波及するかが焦点だ。
 冷蔵庫は三菱電機が今秋発売するシリーズ全体で3〜5%値上げするほか、日立アプライアンスも2万〜3万円、東芝ホームアプライアンスも中位機種で約1万円引き上げる。エアコンでも三菱電機が秋に発売する新機種で10%前後値上げすることを決定。日立アプライアンスは家庭用床置型の機種を約4%値上げし、今後壁掛け型も値上げする方向だ。
 冷蔵庫やエアコンは省エネなど新機能で差別化が図りやすく、新機種投入のタイミングで値上げがしやすいという。第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「素材価格高騰による価格転嫁はやむを得ないため、白物家電は今後他メーカーも続々と追随する可能性が高い」と指摘する。
 これに対し、テレビなどのAV(音響・映像)機器は、「原材料高の圧迫は激しいが競争が激しいため値下げは困難」(大手メーカー)と、慎重なメーカーが多い。

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