記事登録
2008年08月28日(木) 17時44分

〔縮む個人消費〕物価高で広がる生活防衛、来年半ばまで悪化もロイター

 [東京 28日 ロイター] 減速を始めた日本経済に景気底割れの不安が漂っている。先行きを占う大きな鍵は個人消費の動向だが、原油高騰などによる物価高で家計の防衛意識は強まる一方だ。
 政府は今月末にも景気再浮揚を狙った総合経済対策を打ち出すが、消費への刺激効果については疑問視する声が多い。家計の委縮はどこまで続くのか。様変わりしつつある国内消費の実態と回復への処方せんを探った。 
 <家庭菜園で食費抑制、新規の金融投資も手控え> 
 自炊を増やし、子供服はフリーマーケットで調達、外出は電車か自転車で近場へ──。景気が後退局面入りしたとの見方が強まる一方、身近な食料品やガソリンの値上がりが家計を直撃している。今年の4─6月期は、国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費が7四半期ぶりのマイナスに転じた。家計は明らかに防衛に走っており、比較的底堅く推移してきた個人消費が大きな変調をみせている。 
 横浜にあるサカタのタネ<1377.T>のガーデンセンター。最近の売れ筋商品は、ベランダ菜園にも対応できるよう、コンテナと土と種をセットにした「キッチンベジ・タネまきはじめてセット」。今春に発売したところ、30代を中心としたファミリー層やカップルに売れ出した。「海外旅行や車で遠出をすると出費がかさむし、野菜も値上がりしているので、家計の足しになる菜園をやる人が増えている」と同社の淡野一郎広報宣伝課長は説明する。野菜の種の販売は5年前と比較すると2007年度は約30%増となった。  
 「子供服はフリーマーケットの中古品。清涼飲料を買わずに麦茶を家で作り置き。食事はパンよりもご飯」。東京都港区に住む30代主婦は、ガソリン価格が高騰してからの家計の変化をこう表現する。ロイターが26日にまとめた個人投資家8月調査で、食料品やガソリンの値上がりへの対応を聞いたところ「エアコンをなるべく使わない、あるいは設定温度を上げている」、「休日は近場で過ごし、支出を抑えている」、「車の代わりに、自転車や電車を使う」、「外食を減らして、自炊を増やしている」、「金融商品への新規投資を手控えている」などの回答が上位を占めた。第一生命経済研究所経済調査部・主席エコノミストの永濱利廣氏は「家計が節約志向に入ったのは、前回の景気の谷にあたる2002年前半以来のこと」と指摘する。  
 <チラシにも異変、PB商品に人気>
  こうした生活防衛意識は、すでに全国規模に広がっている。全国各地の量販店などのチラシを毎月4万枚近くモニターしている株式会社チラシレポート・代表取締役の澤田英氏は「大手メーカーのナショナルブランド(NB)商品がチラシから減っている。代わりに生鮮食品を掲載したり、今年1、2月頃からはプライベートブランド(PB)商品がポツポツ載るようになってきた」と指摘する。
 食品スーパーのチラシでは調味料やティッシュペーパーは目玉商品にあたるが、味の素<2802.T>のマヨネーズ(400グラム)の6月のチラシ掲載数は前年比8.0%減、キッコーマン<2801.T>のしょう油(1リットル)は前年比26.5%減、大王製紙<3880.T>のエリエール(180組5箱パック)は前年比37.6%減だった。
 生活応援ブランドとしてトップバリュを展開するイオン<8267.T>では、大手メーカーのNB商品との価格差が大きい小麦粉や生乳、油脂を主原料としたPB商品が売れている。原材料高などを背景にPB商品の一部を値上げしたものの、大手メーカーのNB商品よりも1─3割安い価格設定ということもあり、引き続き人気を集めているという。
 家計調査や消費者物価指数(CPI)の動きを踏まえ、総務省では食パンについて「より安いものやプライベートブランド商品に消費がシフトしているようだ」(統計局消費統計課)と説明する。価格が上昇していないコメの購入量は、昨年8月以降、増加傾向にある。 
 <来年も個人消費は厳しい状態、問われる政策対応> 
 一方で、消費がいまだに堅調なエリアもある。「手軽に楽しめるぜいたく」(ミレニアムリテイリング)とされる百貨店の食料品売り上げは「現状の景況感が影響している感じではない」(高島屋<8233.T>)との声もあり、安全志向も手伝って底堅さを維持しているようだ。先行きについても、所得が減少しても消費水準を維持しようとするラチェット効果を背景に、「消費が大きく落ち込むに至らない」(新光総合研究所・エコノミストの宮川憲央氏)との見方もある。
 しかし、政府内も含め、消費の先行きを懸念する声は少なくない。獨協大学・経済学部教授で経済アナリストの森永卓郎氏は、GDPデフレーターの下落が続いていることを踏まえて「インフレかデフレかを問われるならば現状はデフレだ。つまり、デフレの中での物価上昇、という極めて珍しいことが起きている。庶民は、節約で対応するしか手がない」と述べ、異例の事態だと分析する。
 インフレ下ならば物価と賃金は相乗作用で上昇していくが、いま多くの企業は原材料高で収益が圧迫されており、賃上げできる余地が限られている。全国コアCPI(除く生鮮食品)は5月が前年比プラス1.5%、6月は同プラス1.9%に上昇したが、名目賃金の伸びはそれを大幅に下回っている。
 今後の家計消費は、原油やその他の商品市況動向がどこまで下落するかに左右されるが、当面は過去の値上がり分の影響も受けるため、森永氏は「少なくとも来年半ばごろまでは厳しい状態が続く」と予想。「今すぐ政府は減税すべきだし、日銀は金融緩和が必要」とし、早期の政策対応を求めている。 
 (ロイター日本語ニュース 寺脇 麻理記者 武田 晃子記者;編集 北松 克朗)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080828-00000895-reu-bus_all