2008年08月22日(金) 12時36分
読者レビュー◇『リングにかけろ2 第25巻』 車田正美著(オーマイニュース)
「ブーメランテリオス!!」
「ギャラクティカマグナム!!」
に戦慄(せんりつ)を覚える方は、30代後半から40歳過ぎくらいの方が多いでしょうか。『リングにかけろ』(1977〜83年)は、主人公・高嶺竜児の成長を描くボクシング漫画——だったはずが、いつの間にか技の名前を叫びながらパンチを繰り出すと相手が吹っ飛んでいくスーパーバトル巨編になっていました。
これが、現在に至るまで「何でも超人的バトル漫画に変えてしまうジャンプ」になっている状況の起源ではないかともいわれる一方で、ジャンプにしては珍しく円満に完結したといえる作品でもあり、最後の試合は作中の時間軸で1983年7月7日、WBA世界バンタム級タイトルマッチ(日本武道館)でした。
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「あれから十七年——」と、2000年に始まった続編がこの『リングにかけろ2』です。剣崎の息子・麟童は、父への憎悪を抱いてストリートファイトに明け暮れていたところを往年の「ケンカ・チャンピオン」香取石松に連れ戻され、スコルピオンの息子・ザナドゥに完敗したことから次第にボクシングを志す—— という話で始まりました。
ドイツ・イタリア・フランスへの遠征を経て、ギリシア大会(16巻〜)ではアポロン(前作に登場したアポロンの息子)に競り勝つまでに成長した麟童は、次なる戦いに備えて修行を積んでいて、その間に動き出した新世代の「ギリシア十二神」をかつて麟童と戦った各国勢が迎え撃つ、25巻はこのあたりの話になっています。
「まもなく終焉(しゅうえん)」(25巻作者コメントより)を控えて、「スーパージャンプ」での連載が一時休載になっていましたが、8月12日発売の17号で「最終章(クライマックスシリーズ)」と題して再開されました。
■伝説の修行
先日、林田力記者が『BLEACH(ブリーチ)』のレビュー記事で、最近のジャンプ漫画は以前と比べて「修行して強くなる」といった要素に乏しい、といった状況を紹介してくれましたが、本作では昭和テイストな修行が健在です。
麟童は幼少のころから剣崎の「ギャラクシアンエクササイザー」をオモチャに、我流で「ギャラクティカマグナム」を会得していました。石松との特訓の中では竜児の「ドラゴンリスト」を使っているほか、「ハリケーンボルト」を編み出したという秘密の特訓を受け、この技も習得しています。
24〜25巻では、「黄金の日本Jr.」の残る2名、志那虎一城が伝説の「真剣付き扇風機」を、河井武士は特注の古いピアノを持ち込み、これで麟童は5 人全員分の修行を経験していることになります。それでも乗り切っているあたりは「2世漫画」ならではといえるかもしれません。
■夢を掴むために
石松は麟童に、「男の拳ってのは(略)夢を掴むためにあるんだからよ…」「世界中が悪に染まったって てめえだけは正義を貫いてみろよ」と更正を促しました。ところが——
本作の冒頭、「あれから十七年——」の続きは「日本はいつからこんなダセえ国になっちまったんだ」という石松の独白でした。背景は渋谷の写真に「事件」や「不祥事」などの新聞見出しを組み合わせたものでしたが、その一つが「薬害問題、省ぐるみで隠(蔽)」というものでした。
2000年当時ですから、おそらく薬害エイズ問題の話です。しかし、その後の調べによって、これには「正義の味方」の格好をした人々がさらに古い、1964年以来の薬害肝炎問題を放置していたために起こった二次的被害という側面があったことがわかりました。
私は2006年にオーマイニュース(日本版)が発足して以来、これを題材とした記事を投稿しましたが、その中で、まず厚生行政の不作為に左拳を、周知の事実を少なくとも15年以上放置していた各種団体に右拳を、そして、この惨状を招いたアメリカFDAにもう一度左拳をぶつけました。
そんな私が掴もうとした夢はただ、日本人が日本に生まれたことが原因で、30歳そこそこで死なずに済む世の中がもたらされることでした。この私の拳闘もまた、「まもなく終焉」を迎えようとしています。
集英社
2008年7月4日発行
定価540円(税込み)
204ページ
(記者:渡辺 亮)
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