記事登録
2008年08月21日(木) 11時52分

選手引退に関する先行報道は必要なのか?オーマイニュース

 競泳代表の北島康介選手は記者会見にて、

「日本では引退と騒がれているようだが、僕はひと言も言っていない。競技中に選手を動揺させないでほしい」

と語った。

 一方的な引退報道を受けた選手は彼1人だけではない。どうしてそんなことになったのか?

 見出しに「引退」と書かれた記事を拾い集めてみたところ、想像以上にたくさん出てきた。

 もちろん、選手が大会前から引退を決めていたり、競技終了後に明言しているケースもあったが、北島選手と同じく、「引退」とはひと言も明言していないものの方が多く、根本的な原因が垣間(かいま)見えた。以下、インターネットにも掲載された記事の中で、選手が明言していないのに断定的な見出しをしたものを列挙する。

・悔しい日本人メダル1号……谷ママ五輪引退へ

・内柴12月嘉納杯で引退

・体操チームの支柱・鹿島「満足」引退へ

・北島、連続2冠で引退…第2の人生へ

・北島、連続2冠! 最強のまま引退! ……

・桂治引退へ 初戦も敗復も一本負け

・30歳為末予選落ちで引退へ

・伊調姉妹が引退を表明

・伊調姉妹、引退を表明 「大会終わりすっきりした」

・伊調姉妹がそろって引退表明

・伊調姉妹、そろって引退を表明

 これらの多くは文末に「可能性が高い」などと断言を避けているが、見出しのインパクトからすると、受け手に対して決定的な印象を与えている。

 これはテレビニュースでも同様のことが言える。女子レスリングの記者会見でも「これが最後の大会になるんじゃないかと“思います”」と断言していないにも関わらず、引退会見などという見出しとして報じながら「ここで残念なお知らせです」と、あたかも決定したかのようなコメントしていたアナウンサーの姿を見た。

 情報を発する側の人間までもがニュースの見出しにとらわれてしまい、選手の発する言葉にきちんと耳を傾けていなかったのでは? と思わずにはいられない。

 中には、選手周囲への取材によって聞き出したものもある。しかし、自分の進退を表明することとは重みのあることであり、本人の許可もなしに唐突に報道されることよりも、自分の決めた機会に自分の口から公の場で発言したいと望んでいるのではないだろうか?

 このような報道がなされると、選手は今後、精神的な支えを周囲に求めることなく、自分の中に苦しみをため込んでしまいかねないだろう。

 もっと気になるのは、このような進退問題を五輪競技が終わらないうちに大きく報じられてしまうことだ。新鮮なうちに報じたいマスコミ側の立場も理解できるが、副作用もあるように思える。

 日本代表の野球チームが内柴選手の金メダルにあやかって同じ練習場を選んだように、ほかの競技でメダル獲得など活躍した選手の吉報を胸に、自分自身を鼓舞させる選手も多いように見受けられる。

 だが、それと抱き合わせで寝耳に水の引退表明まで情報に入ってしまっては、これからの競技を控えている多くの選手にとって、北京五輪から先の話などまったくの白紙であることを想像すると、自分自身に集中しづらくなるのではないかと心配してしまう。そのような集中力の管理も実力の中のひとつであろうが、引退を過度に先行することが選手への応援につながるとはとても思えない。

 大会前から進退を決めていた人や確定された報道であれば、それなりに受け止める覚悟もあるだろうが、未確定な要素を含むものに関しては、代表選手全員が日本に帰国してからでも遅くないのではないだろうか。選手の中にはしばらく時間が空(あ)くことにもなるだろうが、それまで本人が各自ゆっくり考える時間としても良いように思える。そういう報道姿勢こそが、陰ながらこれから競技に臨む選手を精神的にバックアップすることにつながるように思える。

 ソフトボールの坂井投手やクレー射撃の中山選手のように一度は引退をしたものの、再び復帰した選手もいる。柔道で3連覇した野村選手は、一時は引退と報じられたものの、現役続行を表明した。自分の進退問題に関して、二転三転するのはできる限り避けたいであろうことを考えると、並々ならぬ決意が伺える。そんな敷居を高くすることなく、再び挑戦しやすい環境を整えるためにも、未確定の進退報道を控えるようになることを切に願う。

(記者:有吉 慶介)

【関連記事】
有吉 慶介さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
引退

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080821-00000004-omn-spo