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2008年08月21日(木) 11時46分

古巣の霞が関に“宣戦布告”オーマイニュース

 この6月に「官僚国家日本を変える元官僚の会」(通称「脱藩官僚の会」)なる組織が発足して話題になったが、先日、発起人の1人で慶応大大学院教授の岸博幸氏(37)の話を聞く機会があった。

 岸氏は経済産業省OBで、同省時代、竹中平蔵金融財政担当相の秘書官として、金融機関の不良債権処理に奔走。小泉政権が終わるとともに経産省を辞め、慶応大に移った「脱藩官僚」の1人だ。

 岸氏によると、今の霞が関(中央官庁)は機能不全に陥っており、志を持つ若手や中堅がどんどん辞めていくという。残っている官僚は規制と利権しか眼中にない連中ばかりで、このままでは日本は滅びるそうだ。

 それにもかかわらず、昔から「霞が関改革」が叫ばれても容易に改善しないのは、官僚の実態を知らないマスコミなど外部からの批判がもっぱらだったため。

 その点、彼らは霞が関で仕事をしてきたから、役所のやり口をよく知っており、実効性のある批判や提言ができるという。

 発起人は岸氏ら8人だったが、同調者が多数出ており、近く霞が関に正式に「宣戦布告」するという。

 とにかく意気軒昂だが、私が驚いたのは、上級公務員試験に合格したエリート官僚たちが、かくも簡単に霞が関にさようならをする時代になった点だった。

 今から10年以上前の1993年、私が新聞記者として旧通産省を担当していたころ、通産大臣が産業政策局長を突然解任する事件が起き、省内が大騒ぎなったことがある。どうやら選挙をめぐるゴタゴタが原因だったが、その時、役所側は「政治による行政への不当介入」として猛反発した。

 「なぜ不当介入になるのか」と聞くと、「行政というのは、政策がブレずに首尾一貫しなければならない。政治家は選挙しか頭にないから、そんなことには無頓着であり、日本の政策を真に考えられるのは我々だけだ。人事もその一環」という。

 恐るべきプライド! しかも、政策を議論する場である「法令審」の若手になるほど、そのようにまくしたて、「役所のおごりではないか」と言う私にも、逐一、反論してきた。

 いま思えば、バブル崩壊直後で、良くも悪くも霞が関にまだ元気が残っていた時代だった。その後、同省ばかりか大蔵省もスキャンダルにまみれ、金融庁の分離という大手術を余儀なくされ、霞が関の地盤沈下が決定的になったのである。

■志の消えたエリート官僚

 岸氏が言うように、現在の霞が関からは「日本を支える」という志は姿を消し、法律と許認可をタテに自己保身に汲々とする意識ばかりが目立つ。これだけ天下りの実態が明るみに出て、社会の批判が強まっても、決して自らは改善に動こうとしない事実がそれを物語っている。

 岸氏らは、そんな閉塞感の漂う霞が関を飛び出し、「国民の目線」で動く政治家や政策を支援するという。「(次官や局長になれそうもない)脱落官僚の会」との陰口ももれて来るが、ひょっとしたら「平成の坂本竜馬」が生まれるかもしれない。「脱藩官僚たちの夏」が始まろうとしていることは確かだ。

(記者:本間 俊典)

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