記事登録
2008年08月18日(月) 18時01分

<ベストセラー>「書店訪問」から「アルファブロガー」まで 異色の宣伝奏功毎日新聞

 長期低迷が続く出版業界で、異色の宣伝戦略が功を奏している。著者の地道な書店訪問や、売り込みの舞台裏をブログで公開することで、従来とは違った読者を獲得しているのだ。07年度も前年比マイナス2.8パーセントの2兆1983億円(出版ニュース社「出版年鑑」)と落ち込む業界。新たな営業手法から次のベストセラーが生まれるかもしれない。

 現在130万部を超えるミリオンセラーとなっている「夢をかなえるゾウ」(水野敬也著、飛鳥新社)の成功を支えたのは、著者と担当編集による書店訪問だった。関西弁を話すおかしな神様が、さえない会社員を成功に導くというストーリー。「関西弁のボケがおもしろい」と関西方面で話題となったことから、著者の水野さんが大阪の書店にお礼に行くことを思いついた。担当編集の畑北斗さんと訪問したところ、反応は上々。当時まだ15万部程度だったにもかかわらず、店内の目立つ場所で平積みしてもらうなど破格の扱いを受けることができたという。これに気をよくした2人は、九州から北海道まで全国の書店を回った。

 「著者が精力的に書店に顔を出してお礼をすることで、書店員のみなさんのお力をいただけた」と畑さん。訪問時には水野さんが自腹で購入した宣伝用の「のぼり」を持参。サイン会と、水野さんの執筆秘話やこれまでの歩みを語るトークショーも開催した。「当初は、参加者が4、5人しかいなかったこともありました。またアポイントなしで訪れた書店さんでは、門前払いをくらうことや本そのものを置いていないところもあり、サイン色紙だけ『お願いします』と置いてきたこともあります」と畑さんは振り返る。しかし全国を回るうちに口コミで参加者は増え、部数も飛躍的に伸びた。今秋には人気俳優・小栗旬さん主演でドラマ化されることも決まり、さらなる上積みが期待される。

 今年上半期の直木賞候補になった「のぼうの城」(著:和田竜、小学館)は、戦国武将・成田長親が豊臣秀吉の軍勢と対決する時代小説で、現在20万部を超えるベストセラーとなっている。物語の舞台が現在の埼玉県行田市ということで、同県の書店を中心に宣伝を打ったところ、これが的中。全国に波及する起爆剤となった。「同県出身の宣伝部員が『埼玉県民は地元の話に敏感だ』と考えたのがきっかけです」と担当編集の石川和男さん。ミリオンセラー「世界の中心で愛をさけぶ」(著:片山恭一)の担当でもある石川さんは「同書も、もともと書店の手作りPOP(宣伝ポスターやカード)から火がつきました」と、書店から読者へアピールすることの重要性を語る。

 一方、書店ではなく読者に直接訴えかける作戦も。「IT企業らしい進取の気性に富んだ方法で勝負したい」と語るのは、ライブドアパブリッシングの窪田智子取締役だ。7月に刊行した「36倍売れた! 仕組み思考術」(著:田中正博)は「商品を『売る』のではなく『売れる』仕組みを作る」という内容で、宣伝もこれにならってアルファブロガーに献本することで、ネット上での口コミで売れる仕組み作りを模索した。また「売り上げ1億円を引き寄せる感謝の法則」(著:成田直人)は、著者の経験を生かした営業ノウハウ本という内容を反映して「発売3カ月で著者自身が1万部を手売りする」ことを巻末に明記し、売り切るまでの様子を著者のブログで公開している。いずれも上々の滑り出しを見せており「読者個人へのアプローチをこれからも積極的にやりたい」と窪田さんは、今後の展開に自信を見せる。

 「正しい販売方法というのはないと思います。考えつくあらゆる方法を実践していきたい」と窪田さん。書店から取次への返本率が4割を超えるという出版不況を前に、各社のアイデアが試されている。【長岡平助】

【関連ニュース】
「夢をかなえるゾウ」著者、水野敬也さんインタビュー
質問なるほドリ:ベストセラー「○○万部」ってホント?
「のだめ」上半期トップ 「ハガレン」「もやしもん」も上位 マンガ部門ベストセラー
勝間和代さん、西原理恵子と対談「女の人は働いたほうがいい」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080818-00000014-maiall-soci