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2008年08月13日(水) 00時00分

(6)簡単取引 税逃れ急増読売新聞


インターネットを通じ個人が簡単にお金を稼げるようになった

 <ゴルフ上達の肝(きも) 知りたくありませんか>

 千葉県山武(さんむ)市の男性(27)が運営する「ゴルフ上達法」のサイトは、クレジットカードで1万9800円を払えば、男性の編み出したノウハウをパソコンに取り込める。

 きっかけは知人の勧めだった。アルバイトをしながらプロゴルファーを目指す男性は、パソコンは初心者同然だったが、3か月かけて準備した。開設1年で、経費を差し引いても月々5万〜10万円の利益が上がり、「正直、信じられない気持ち」と言う。その利益のおかげで、ゴルフ練習の機会も増え、プロテストを受けずにツアー出場資格を得られる予選会の1次を8月に突破、夢に一歩近づいた。

 「犬のしつけ方」「育毛マニュアル」……。インターネットの普及は、一般の人が持つこうした「豆知識」さえも、「情報商材」と呼ばれる商品に変えた。

 ネット以前は、情報商材を売るには自費出版しかなく、費用は数十万〜数百万円もかかった。パソコンさえあれば、ネットなら費用はさほどかからない。情報商材市場は、年180億円に上るとの推計もある。

 野村総合研究所の予測では、消費者間のネットオークション市場は、2009年度には2兆800億円と、05年度の1・6倍に達する見込みだ。ネットオークション最大手のヤフーによると、08年3月の会員は691万人となり、5年前の2・7倍に膨れ上がった。

 NTTデータ経営研究所の田村直樹アソシエイトパートナーは「ネットは、ニッチ(すき間)分野の需要と供給をうまく結びつけている」と分析する。

 ネットは、個人ビジネスを一気に拡大させたが、同時に、ネットビジネスの所得隠しや申告漏れも問題になり始めた。

 ある会社員は、自分のサイトの広告を通じ商品が購入されるたびに、広告主から一定額が支払われる仕組みで、2年間で約7000万円を得たが、申告せず遊興費にあてていた。別の無職男性は、オンラインゲームで獲得したゲーム用の道具などをネットで販売し、3年間で約6000万円を手にしたが、申告せずにすべて預貯金していた。

 国税庁が07年6月までの1年間に摘発したものだけで、ネット取引する個人の申告漏れは前年同期比2倍の280億円に上った。申告漏れの疑いによる調査は2325件と6割増だ。

 「申告する必要あるんですか」「見つからなければいいじゃないですか」

 元税務署員の木築孝伸税理士は、ネット取引を巡る納税問題で相談に訪れた主婦や会社員らが、こう抗弁するのをよく聞く。木築税理士は「ネットで得た利益は隠しておきたいと考える人が多い」と指摘する。

 国税庁は00年、「電子商取引専門調査チーム」を各国税局に設置し、悪質な税逃れの摘発を強化した。ネット接続業者から得た情報と国税局への申告状況を照合したり、実際にネットで商品を購入して取引相手や現金の振込先を突き止めたりしている。

 それでも、「次々と新しい取引が登場し、すべてを把握するのは難しい」(国税庁)。正直な納税者が損をしないための仕組み作りが求められている。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080813nt02.htm