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2008年08月11日(月) 11時13分

オランダに見る日本の移民政策の未来オーマイニュース

 自民党の移民政策が動いている。

 今年5月、自民党は外国人の定住推進を目的とした基本法制定、および「移民庁」設置などの検討に入り、6月には、党内の議員連盟が、人口減少対策として、今後50年間で1000万人の移民受け入れの提言をまとめている。また、経済団体連合会もそれ以前から移民受け入れを政府に積極的に求めている。

 私はこれは非常に危険な兆候なのではないかと危惧(きぐ)している。

 ここで、とある事件を振り返ってみたいと思う。2004年11月に、オランダの映画監督が殺害された事件だ。

 殺害されたのはテオ・バン・ゴッホ氏。名前の通り、著名な画家ゴッホの遠縁にあたる人である。逮捕された犯人はイスラム系の移民で(どのメディアもその表現に慎重になっているが)、イスラム教過激派の信奉者であると目されている。

 ゴッホ監督殺害直前、彼が手がけた、イスラム社会における女性への弾圧という政治的・文化的に非常にデリケートな内容の映画がテレビ放映されていた。また、結果的に遺作となってしまった彼の作品が、移民排斥を訴えていた政治家の暗殺事件を取り上げたものというのも、この事件と無関係ではないだろう。

 これについては1991年に、イスラム社会から反発を受けた小説「悪魔の詩」を翻訳した、筑波大学教授の五十嵐一氏が何者かに殺害された事件を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 オランダといえば、1970年代ごろから労働力不足解消のために移民を積極的に受け入れた歴史がある。移民は今やオランダ全体の人口の1割近くを占めるほどに膨れあがり、大都市部に限ればその割合はもっと高いという。しかし、他国からオランダを訪れた第1世代のみならず、オランダで生まれたその孫子の世代すらも、多くがオランダ語の教育を受けておらず、オランダ社会から孤立しがちで、必然的に親・曾祖父母が生まれた国への愛着を強めてしまうそうだ。

 そのため、彼らはオランダに住みながらもオランダ社会に溶け込むことを拒絶し、孤立したコミュニティーを形成し、ますます排他的になってゆく。ゴッホ監督殺害事件にはそういった社会的背景があった。寛容を美徳とするオランダだが、その精神でもって、異文化に不寛容な人々を招くことについて考えさせられる事件だったように思う。

 皮肉なことに、自民党の議連が提言している「労働者不足解消」という大義名分や、受け入れ人数「1000万人(日本国民の約1割)」が、事件当時のオランダのそれと酷似している。この点に対して言いしれぬ不安を感じるのは私だけだろうか。

 また日本の場合、近隣に朝鮮半島や中国といった移民調達候補となる国に事欠かないわけだが、そのいずれも国是として、日本を悪とする歴史認識をいまだに継続している。そんな彼らが日本に大量に流入し、日本で認められた「自由」でもって日本社会に参加することを拒絶したらどうなるのだろうか。そう考えた時、ふと長野の聖火リレーの騒乱が頭をよぎった。これに答えてくれる政治家を、私はいまだに見つけられずにいる。

 移民推進派の議員の方々は、オランダと同じ轍(てつ)を踏まないために、こういった歴史から何を学んでいるのか、有権者の前で堂々と説明すべきではないだろうか。

(記者:瀬田 隆一郎)

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