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2008年08月09日(土) 15時01分

宇都宮地裁判事ストーカー:判事有罪、無言のまま裁判所後に−−甲府地裁 /山梨毎日新聞

 ◇「司法に不信の念抱かせた」 被害者らに直筆で謝罪
 「懲役6月。2年間、刑の執行を猶予する」。8日、今まで多くの事件を裁いてきたベテラン判事は、被告人席でまっすぐ背を伸ばし、かつて同僚だった甲府地裁の渡辺康裁判長による有罪判決を聞いた。甲府地・家裁都留支部長時代に部下の女性に匿名メールを執拗(しつよう)に送ったとしてストーカー規制法違反罪に問われた宇都宮地裁判事、下山芳晴被告(55)。閉廷後は、弁護士を通じて直筆のコメントを出したが、青ざめた表情で無言のまま裁判所を後にした。【藤野基文、曹美河、沢田勇、中西啓介】
 甲府地裁301号法廷。下山被告は午前10時前、グレーのスーツにピンクのストライプシャツ、青色のネクタイ姿で入廷した。司法修習生時代の同期ら5人で構成する弁護団を横に、渡辺裁判長に一礼。顔は青ざめ、表情はこわばっていた。
 判決の言い渡し前、渡辺裁判長から「何か述べることは」と促され、「(ストーカー行為を認めた)前回述べた通りで付け加えることはありません」としっかりした口調で答えた。
 「被害者の名誉を害し、性的羞恥心(しゅうちしん)を害する卑猥(ひわい)な内容のメールを繰り返し送信し、巧妙かつ悪質」「ストーカー行為に及びながら、一方では親身になって相談に応じているよう装うなど、被害者の心をもてあそぶ卑劣な犯行」。厳しい言葉で断罪する渡辺裁判長を、下山被告はじっと見つめた。
 7月25日の初公判で「法律の世界にいるのは許されないと考えている」と表明した下山被告。9月上旬にも国会の裁判官訴追委員会が弾劾裁判所に罷免を求めて訴追する見通しだが、渡辺裁判長が「被告人は罷免の可能性が高い」と述べた時も、下山被告の表情は厳しいままだった。
 閉廷後の午前10時45分ごろ、下山被告は地裁裏の出入り口から弁護団と退庁。待ちかまえていた報道陣にもみくちゃにされながら、一言も言葉を発することなく迎えの車の後部座席に乗り込んだ。
 「私の思慮を欠いた行動により、被害者をはじめ多大な御迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」。下山被告が出したコメントには、「司法に対する不信の念を抱かせた」として、被害者や国民に対する謝罪の言葉が、A4判ノートの1ページに8行にわたって書かれていた。
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 ◇判決要旨
 ◆事案の概要
 被告人は、被害者に対する恋愛感情を充足する目的で、08年2月19日〜3月19日、16回にわたり、東京都文京区の自宅ほか3カ所からパソコンを使用し、被害者の携帯電話に「ラブホ Vちゃんが入るの見いちゃった!」「身体きれいに洗っておいてね〜会いに行くからさぁ」などの電子メールを送信し、ストーカー行為をした。
 ◆量刑の理由
 本件は、匿名のメールアドレスを用いて第三者を装いながら、被害者の行動を監視していると思わせる内容や性的羞恥心(しゅうちしん)を害する卑猥(ひわい)な内容のメールを繰り返し送信したもので、巧妙かつ悪質である。一方で、被害者からの相談に親身になって応じているように装うなど、被害者の心をもてあそぶ卑劣な犯行でもある。
 被告人は、被害者の交際相手が被害者に好ましい相手ではないので、別れさせようと考え、犯行に及んだと供述する。しかし、メールの内容や被害者に対する対応ぶりなどからすれば、相談されることを期待し、これに応じることなどを通じて、被害者と自分との関係を従前同様のものに戻したいと考えて犯行に及んだと認められ、動機において酌むべきものはない。
 被害者は、約1カ月という期間にわたり、何者かに監視されていると不安に感じる内容のメールを送付され続けており、被害者が受けた恐怖感には非常に大きいものがあった。被害者は、職場の上司であり裁判官である被告人を信頼して、被害を打ち明けて相談するなどしていたのに、その信頼が裏切られ、精神的苦痛は大きい。
 本件は、現職の裁判官が、裁判官や司法に対する国民の信頼に反して、ストーカー行為という誠に恥ずべき犯行に及んだものであって、強い非難に値する。
 他方、被告人は被害者に、自分がメールを送った犯人であると告げ、被害者の心情を思い反省の態度を示していること、弾劾裁判により裁判官を罷免される可能性が高い上、事件が広く報道されるなど一定の社会的制裁を受けていることなど、酌むべき事情も認められる。
 上記の各事情に加え、同種事案の量刑の動向をも考慮し、刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

8月9日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080809-00000142-mailo-l19