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2008年08月07日(木) 21時32分

【解説】流出メールでMobileMe改善策が判明——アップルに顧客満足度の高いクラウド・サービスは提供できるのか?Computerworld.jp

 「MobileMeを直ちに改善せよ」——米国AppleのCEO、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏は8月4日、今年7月11日にスタートしたPC/モバイル・デバイスのオンライン同期サービス「MobileMe」にまつわる全般的な問題を改善するべく、同社のiTunes事業を率いる幹部に新たな任務を命じた。「iPhone 3G」の世界同時発売と共に登場したMobileMeは、同社のクラウド・コンピューティング戦略を具現化する重要なサービスである。だが、はたしてAppleは大多数のユーザーを満足させられるクラウド・サービスを提供しうる体制をとれるのだろうか。

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■Jobs氏の社員あてメールの内容が流出

 Jobs氏は4日に同社社員あてに送付した電子メールの中で、MobileMeサービスを立ち上げた時期が「Appleにとって最高のタイミングとは言えなかった」ことを認め、同製品は「当社の理想とする水準に達していない」とコメントしている。さらに同氏は、「iPhone 3G」および「App Store」と共に、鳴り物入りでMobileMeサービスを発表したものの、より綿密な検証を行い、段階を踏んでリリースすべきだった、とも記している。

 このメールには、Jobs氏がAppleの組織編成を見直したとも書かれている。「このたびの経験に学び、MobileMeを顧客に愛されるサービスへ進化させるための対策を充実させていくつもりだ」(同メール)。この社内メールの内容を初めに報じたのは技術系Webサイトの「Ars Technica」で、その後、Computerworld米国版の姉妹誌であるMacWorld米国版がそのコピーを入手して記事を掲載した。

 「今回は社員諸君に、MobileMeチームをエディ・キュー(Eddy Cue)の配下に組み入れることを報告する。Cueは本日から、iTunesやApp Storeに加え、MobileMeを含む当社の全インターネット・サービスを統括することになる」(同メールより)

 Cue氏はインターネット・サービス担当バイスプレジデントの肩書きを授かり、Jobs氏の直属となる予定だ。なお、これまでMobileMeを担当していたのは、Appleの前アプリケーション・マーケティング担当バイスプレジデントで、MobileMeの前身である「.Mac」サービスや、「iLife」「iWork」「Aperture」といった、Appleの主力アプリケーション製品の責任者を務めていたロブ・シェーベン(Rob Schoeben)氏である。

■「Appleが失敗を認めたのは、きわめて画期的」

 Jobs氏は昔から秘密主義で知られている。今回、公になった社内メールの内容について、米国の市場調査会社Gartnerのアナリスト、マイク・マクガイア(Mike McGuire)氏は、「Appleが『失敗を犯した』と認めたのは、社内的にも社外的にも、きわめて画期的な動きだったと思う」とコメントした。

 これまで、音楽・動画コンテンツのオンライン販売サービス「iTunes Store」を中心に、Appleによるコンテンツ・ビジネス関連の取り組みをつぶさに追いかけてきたMcGuire氏は、Cue氏の実績を高く評価している。「リリース後の調査から、AppleはMobileMe(事業の統括)に少なからず問題があったという結論に達したのだろう。Cue氏はiTunes部門トップの座に就いていたこの数年間、同サービスの世界各国への常時配信体制を整え、すぐれた手腕を発揮した。大胆な変革を次々と実現してきた人物なので、今回の起用は非常におもしろい」(McGuire氏)

■改善活動の前に立ちはだかるのは、Appleの企業文化と戦略

  ところがMcGuire氏は、実のところもっと興味深いのは、AppleがMobileMeの二の轍は踏みたくないと本気で決心している場合に、今後、同社が立ち向かわねばならない課題のほうだと言う。「Appleは、MobileMeのようなインターネット・クラウドのサービスに関して、(より本格的な)ベータ・テストを実施する必要があるかもしれない」(同氏)。しかしながら、McGuire氏によれば、Jobs氏が社内向けメールの中で、MobileMeは「もっと時間をかけて成熟させ、検証を行うべきだった」と述べているのとは裏腹に、Appleはそうしたテストの実施を望んではいないというのだ。

 「ベータ版の提供によって多くの企業秘密が公になるのは、戦略面から見ても戦術面から見ても、Appleにとって好ましいことではない。製品一式の中から特定のツールを公開してしまえば、製品リリースにおける秘密を厳守することも難しくなる」(McGuire氏)

 McGuire氏は、公式発表を行うまで製品情報をかたくなに秘匿しておくことで、Appleは多大な恩恵にあずかってきたと分析している。製品が華々しく発表され、伏せられていた詳細情報が明らかになったときの興奮は、リリース以前にさまざまな憶測をめぐらせていたときのそれとは比べものにならない。同氏はこう強調する。「だれもが、『噂以上の代物だ』という評価を下してくれる。これこそ、Appleの貴重な財産となっているのだ」

 とはいえ、今回のMobileMeサービスをめぐる騒動を機に、今後は、ユーザーばかりでなく、おそらくは社内からも製品/サービスの本提供前にテストをすべきだという声が高まり、Appleはそうした財産を手放さざるをえない状況に追い込まれるだろう。特に、同社がユーザー対象をコンシューマー中心から小・中規模企業および大企業へと拡大しつつある今日においては、そうした方針転換は十分に考えられる。

 さて、Jobs氏の社員にあてたメールには、ベータ・テストの実施を約束する文言はない代わりに、以下のような、ありきたりな反省の弁と将来への意気込みがつづられていた。

 「MobileMeの立ち上げにまつわるトラブルは、われわれがインターネット・サービスについて学ぶべきことがまだ多く残っていることを教えてくれた。この教訓を生かさない手はない。MobileMeのコンセプトは大胆かつ魅力的なものであり、年末までにはわれわれ全員が誇らしく思えるサービスになるよう、努力していきたいと思う」

(Gregg Keizer/Computerworld米国版)

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