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2008年08月04日(月) 19時55分

トヨタ系アイシン・エィ・ダブリュで古参社員が陰惨な新人いじめMyNewsJapan

 自動車のオートマチック(AT)ミッション部品を製造するトヨタグループ系製造会社「アイシン・エィ・ダブルリュ株式会社」(愛知県安城市、石川勉社長)の社員Aさん(23)が、先輩社員らの集団いじめに遭い心的外傷を受けたとして、先月、刈谷労働基準監督署に労働災害を申し立てた。これに対し会社側は「労災に該当しない」と否定。「いじめた当人たちが一番よく知っているはず」とAさんは訴える。

 Aさんがアイシン・エィ・ダブルリュ社(AW社)の入社試験を受けたのは2005年のこと。職場の先輩が勧めてくれたのがきっかけだった。

 AW社はトヨタグループ・アイシン精機の子会社で、地元では年間の売上高が8,764億円に達する大企業である。

 「大きい会社だから、収入が安定している。休みも取れる。いい会社だと思った」とAさんは言う。

 当初の印象は予想どおり「いい会社」だった。だが、それはつかの間、ATの製造ラインに配属された同年冬から状況は一変する。

 新しい職場に配属された初日のことをよく覚えている。慣れないライン作業に戸惑っていると、職長代理の男が近づいてきてやおら怒鳴った。

 「だめだこいつは。使えんな!」

 周囲で作業をしていた社員が振り返るほどの声。手伝おうともしない。息苦しい職場だった。

 ライン作業は単調ながら煩雑で忙しい。コの字に配置されたラインを、ATが流れてくる。Aさんは外観をチェックして部品を取り付ける担当だった。10個ほどの工程を、長くて40数秒、短いときで20秒数でこなす。

 最初は追いつかずに時々ラインを止めた。止まると「ライン外」というライン付きでない社員がやってくる。

 仕事はじきに慣れることができた。それよりも苦しかったのはイジメだった。職長補佐のSとベテラン2人の3人組みがネチネチといびる。いずれも古参で、「ライン外」だった。

 あるとき、3人組のひとりが「1万円貸してくれ」と金をせびってきた。Aさんは断った。すると翌日から、まるで報復するようにイジメがいっそうひどくなった。

 「臭いなあ、ここじゃないの?」
 「あいつ目がキモイなあ」」
 「アイプチ!」(二重まぶたにする化粧品のこと)

 コマネズミのように働いているAさんの周囲を、3人が入れ替わり立ち替わりうろつき、口汚くののしった。罵声は少ないときで1回〜2回。多いときは10回を超えたという。

 「私の後を通っては『アイプチ!』『気持ち悪い』などと言う。言い返すとひどくなると思って、我慢してやりすごしました」

 ライン作業で、Aさんよりすぐ上流の場所に応援に入り、ATをどんどん下に流して困らせたこともあった。

 「職場の人はわかっていても何も言わない。古参連中の矛先が自分に向くのを恐れていたんっだと思います」

 〈臭い、キモイ、バカ、空気読めない〉と職場のトイレに落書きをされたこともある。

 劣悪な環境で、Aさんはただ衝かれたように仕事をした。

 「きっちり仕事をしないと。間違ったらまた何を言われるかわからない。そんな脅迫観念がありました」

 不眠、胃痛、食欲不振、倦怠感、周囲がみな悪口を言っているような気がする。ひとりでどこかに行きたい——そんな異常心理になった。

 「誰ともかかわりたくない。死にたいという気持ちに近かったのかもしれません」とAさんは、当時を振り返る。

 幸い、息子の異変に気づいた両親が、Aさんを病院に連れて行った。診断は「うつ状態」。仕事のことが原因だろうと医師は言った。

 今年7月7日、Aさんは支援者の助言を得て、「職場のパワハラによって精神にダメージを受けた」刈谷労働基準監督署に労働災害の申請を行う。

 これに対しAW社は「労災に該当しないと思料いたします」との見解を示した。イジメもパワハラもなかったというのだ。

 「この会社で一生働くつもりでした。なのに、人生を狂わされた思いです。パワハラはなかったと会社は言いますが、嘘を言う理由などありません。なぜ認めないのですか」

 AW社には1万人以上の従業員が昼夜働いているという。Aさんの怒りは、はたしてAさんひとりのものだろうか。

(三宅勝久)


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