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2008年07月31日(木) 11時04分

中年の日雇い派遣体験記オーマイニュース

 私は、フリーで翻訳や文筆などを続けている。このSOHO業を約10年以上続けたせいか、はたまた、節操のない中年独身のせいか、完全なメタボリックになってしまった。

 軽微な脳梗塞に高血圧、高脂血症となり、しまいには脳外科の医師から厳格な食事制限をしないと糖尿になり中風寝たきりになりますよ、と、言われた。

 そこで思い立ったのが、肉体労働である。散歩は長続きしないし、ジムに通うには金がかかる。学生時代、登山の基礎訓練を受けていたので、日雇いなら、調子の良い時だけ行けば済むし、時間を拘束される事もない。どんなきつい仕事でも1日だけなら我慢できるからである。そういう次第で、昨冬、日雇い派遣会社のフルキャストに登録した。

 説明会では、大体が学生さんから、30代後半ばの人達が圧倒的に多かった。50代の私がたぶん最高齢であろう。日雇いで仕事を紹介してくれる業種はテレアポとか、イベント会場設営、家や事務所の引越し・移転、それと農産物の出荷作業などが主たる業務である。
 説明会場で知った事だが、港湾労働、建設業、警備員は日雇いの世界では法律で禁止されている。労災上の関係のせいであろうか?

 今年の勤務日数はまだ10回程度しかない。しかし、それでも中性脂肪が激変し、糖尿病症候群もなくなった。これは、健康面では大きな1歩である。

 そのほかに感じたのは、フルキャストのメンバーの真面目さ。元佐川急便のドライバーという人もいた。また、ソニー工場の派遣社員で給料が少ないため、休みの日に来ているという人もいた。就業の動機は千差万別だが、体育会系や肉体労働上がりの人が多く、挨拶も含め礼儀正しいのには驚かされた。

 私は学生時代の8年間、ほとんど土方で生計を立てたものだが、今の若者は、3K(きつい、汚い、危険)の仕事を嫌う傾向があると聞く。また、多くの経営者の方から、仕事に対する責任感がとぼしいと聞いた。

 だが、法令はともかく、日雇いすらまともにできない人間が、コンビニでまともに働けるであろうか?

 日雇いは、有史以来、人間の労働形態の基本の中の基本である。その点、派遣会社の日雇いさんは挨拶もちゃんとしており、人間関係も問題ない。私の見た所、大学に通うもやしみたいな学生さんよりはるかに背筋が一本通っている。そして、彼らも一所懸命生きている。

 そこにはマスメディアを通して伝えられる、半ば作り上げられたような“ネットカフェ難民”の姿はなかった。もし本当にネットカフェ難民の方がいたら、彼、彼女はサービス業しかできないのではないだろうか? 肉体労働の日雇い派遣がつとまれば、他のパートもできるはずである。ただ、パートにしても自給は安いし、それだけでは食べていけない。何らかの理由で正業につけない人たちもいると聞いた。

 日雇い派遣以外にも、恒常的な派遣社員や、近年騒がれた名ばかり管理職も、産業の構造的な問題で深刻だろう。グローバリズムがもたらした負の遺産であると言える。日雇い派遣だけを生け贄(いけにえ)のように問題視し、正社員登用の道のない工場労働者の派遣の問題を棚上げしていては、労働環境は改善しない。

 最後に一言。日雇いで汗を流した後のビールは格別にうまい。今日もどっこい1日生きたぞ、という一種の満足感はたまらない。

(記者:山部 悦則)

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