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2008年07月29日(火) 13時14分

旅の「危険度」とは何か?(上)オーマイニュース

 先月私は、「旅の自己責任論は、若者の好奇心や挑戦心を奪う」という記事を書き、その中で、「外務省の危険度情報」については稿を改める、と述べた。遅ればせながらその続編である。

 前回記事は、イランでの邦人学生誘拐事件を受けて、自民党の笹川議員が「外務省が渡航を自粛すべきとした地域の場合、救出に要した費用は本人の負担に」と発言したことに関するものであった。

 ここでは、その論拠となっている外務省の海外渡航情報(通称危険度情報)について、一体どんなものであるのか、社会的にどんな意味を持つのか、具体的な事例と私の考え方を交えて考察したい。

 現在外務省は4段階に分けて海外渡航情報を発している。危険度の低いほうから順に、次のとおりである。

(1)十分注意してください。
(2)渡航の是非を検討してください。
(3)渡航の延期をお勧めします。
(4)退避を勧告します。渡航は延期してください。

(「外務省の危険度って5段階では?」と思う方がいるかもしれないが、2002年4月に枠組が見直され、それまでの5段階方式から現行の4段階に改定されている)

 たとえば、今年5月にはイエメンで邦人女性2人が誘拐されるという事件が発生した。このとき該当地域の危険度は(3)であった。笹川氏の意見に従えば自己負担の対象だ。

 ただし、この件については1つ問題点があった。それは、2人がパッケージツアーの参加者であったということだ。しかも販売した旅行会社は、危険度情報について、参加者に周知していなかったとされている。

 日本旅行業協会によると、危険度が(3)、(4)の場合は旅行中止、(1)、(2)は各社の判断に委ねるというのが業界の方針(強制力はない)である。イエメンの事件を受けて、この方針を徹底させたい考えだ。

 続いてジンバブエの例。ご存知のように、ムガベ政権の独裁下で欧米諸国の経済制裁を受けている国であり、外務省は今年4月24日、ジンバブエ全土の危険度を(1)から(2)へ引き上げた。

 同国はザンビアとの国境にビクトリア滝というアフリカ有数の観光名所を持つため、これを含むツアーを催行中止にするかどうかは、旅行会社によって判断が分かれている。

 一方、観光を外貨獲得の重要手段と位置づけているジンバブエは、6月9日に政府観光局のカリコガ・カセケ氏らが来日し、外務省を訪問して渡航情報の引下げを要請している。

 日本旅行業協会も6月下旬、現地に調査団を派遣、「見た限りではセキュリティ、治安ともしっかりしている。他の観光地と変わりない」として、同じく(1)への引下げを求めている。

 外務省は大使館のある首都ハラレで得られた情報を基にしており、数百キロ離れたビクトリア滝周辺の状況まで把握していないのではないか、といった声もある。

 比較的身近なところではチベット。今年3月に発生したチベットにおける大規模な騒乱は記憶に新しいが、(3)に引き上げられて以来、まだ危険度は引下げられていない。隣接する甘粛省や四川省も、(2)のままだ。

 これに対し、チベット自治区政府は6月25日に外国人観光客の受け入れを再開している。これを見ると、中国当局の判断は、「安全」ということになる。すでに個人旅行者でチベットに入っている人はいるだろうし、諸外国によってはチベット行きのツアーを再開させているところもあるかもしれない。

 このように、国や地域の安全性についての解釈は、立場によって様々に異なる。関連業界、あるいは対象国政府など、様々な思惑も絡んでいる(同じようなテロ事件が起きたとして、中東やアフリカ諸国であれば危険度を上げやすいが、アメリカやヨーロッパの国だと在留邦人も多く、影響が大きいので上げづらい、ということもあるだろう)。

 また、当たり前の話だが、危険度が出ていないからといって、安全が保証されているわけではない。後述するが、スリや強盗などの一般的な犯罪は、危険度ゼロや、(1)の国・地域であっても、頻発している場合がある。

 外務省の海外安全ホームページには、次のように書かれている。

 「本情報は、法令上の強制力をもって、個人の渡航や旅行会社による主催旅行を禁止したり、退避を命令するものでもありません」

 危険度はあくまで一つの目安である。お上がダメと言うからダメなのではなく、最終的には渡航者の判断に任せますというのが、外務省としても公式な立場なのだ。

 私はこの考えを支持したい。

(下につづく)

(記者:木舟 周作)

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