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2008年07月28日(月) 17時51分

【コミック】長期連載成功の秘訣『こちら葛飾区亀有公園前派出所160巻』ツカサネット新聞

本書は週刊少年ジャンプで連載中のマンガの単行本である。漫画作品として有数の長いタイトルのため、「こち亀」と省略されることが多い。「こち亀」は基本的に一話完結型のギャグ漫画で、亀有公園前派出所に勤務する中年の警察官・両津勘吉巡査長(ニックネームは両さん)を主人公とする。

「こち亀」の魅力の一つは警察官を主人公としていながら、警察とは無関係な話題が豊富なことである。職業が警察官でなくても成り立つ話題の方が多いとさえ言える。

取り上げる話題は両さんの趣味や特技の多さを背景に、プラモデルやテレビゲーム、漫画、スポーツ、サバイバルゲーム、ベーゴマ、メンコなど多岐に渡る。「こち亀」は1976年から30年以上も連載が続いているが、様々な話題を扱っていることが長期連載を成功させている一因と考えられる。

この160巻でも話題は豊富である。サブタイトルにもなっている「海が呼んでいるの巻」では帆船の運転技術が取り上げられた。他にもテレビショッピングや移動型の回転寿司、携帯電話の新機能、コンピュータによる作画などがある。今では使われることの少ない帆船の運転からCGのような最新技術まで幅広い知識・技術を有しているのが両さんの驚くべきところである。

特に面白かったのは冒頭の「工場に惹かれての巻」である。これは工場鑑賞という最近注目されている趣味を扱った話である。工場の建物や配管の質実剛健さや機能美、SF映画に登場する近未来都市のような感覚を愛する「工場萌え」の感覚にとりつかれ、両さん達も工場見学に出かける。

通常の「こち亀」では、このような場合、両さんは対象分野に精通した、かなりのマニアである。しかし、ここではビギナーの位置付けである。見学先の工場で偶然に出会った工場マニアの奥深さには付いていけず、引いてしまっている状態である。このギャップが笑いを誘う。

この話の前提として「工場萌え」が一定のブームになっている現状がある。工場の写真集が売れ、工場見学ツアーも行われている。このような状況をヒントに作者が創作したことは、「工場萌え」の書籍を参考文献として挙げていることから判断できる。

しかし、「こち亀」の素晴らしい点は単に流行の話題を取り上げただけではない。漫画では工場が実に緻密にリアリティをもって描かれている。アシスタントが大変だったと思ってしまうほどである。工場の魅力と迫力を読者に伝わるようにしている。表面的に話題を借用しただけではなく、きちんと漫画の中に取り入れる姿勢には敬意を表したい。

たとえば車の漫画で車、軍艦の漫画で軍艦の描写にリアリティをもたせることは当然である。むしろ最低レベルの条件とさえ言える。しかし一話完結の「こち亀」では、次回は全く別の話題となってしまい、工場鑑賞の話題は二度と登場することがないかもしれない。それにもかかわらず、工場の描写に力を入れている。このような手抜きをしない姿勢が「こち亀」のクオリティを高めていると考える。


秋本治著
集英社
192ページ
定価410円
2008年6月発行


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【漫画】「こち亀」160巻を振り返る


(記者:林田 力)

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