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2008年07月27日(日) 00時01分

ウイグル独立派犯行声明に中国慎重姿勢 漢族への反発が背景に産経新聞

 【北京=野口東秀】中国・新疆ウイグル自治区の分離・独立を叫ぶ「トルキスタン・イスラム党(TIP)」がテロの犯行声明を出したが、26日の新華社電によると、中国当局は、同党とテロ事件の関連については慎重な姿勢を示した。同声明の真偽は不明だが、ウイグル独立派が声明を出した背景には、漢族に対するウイグル族の強い反発がある。チベット騒乱に次いで、中国の民族問題に国際社会の注目を集めさせる思惑があるようだ。

 中国雲南省昆明市の連続バス爆破事件で同省当局者は26日、「トルキスタン・イスラム党」を名乗る組織の犯行声明について「テロリストと事件を結び付ける証拠は見つかっていない」と語った。

 しかし、当局は今年4月、北京五輪を前に北京や上海の政府庁舎やホテルなどを狙った爆弾テロや毒物混入テロを計画していたとして45人を拘束、爆破装置などを押収したと発表した。このうちの10人は「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」の指揮下にあったとしている。

 当局はさらに、今年上半期だけで五輪破壊を計画していたウルムチの5つのテロ組織を摘発し、82人を拘束したとされ、これらの計画は“氷山の一角”にすぎないとみられている。

 ウイグル族は、8世紀ごろから中央アジアや新疆に移住したトルコ系民族だ。多くはイスラム教スンニ派で、1933年から44年にかけ、「東トルキスタン共和国」の樹立を2度宣言した。中国側は「新疆は漢朝以来、中国の一部。統一国家が存在した事実はない」とするが、ETIMなどは「中国は西暦750年から約1000年間、中央アジアを支配していない」と主張する。

 55年に自治区が成立した後も政情不安定な状態は続き、特に90年代からは大規模な暴動や爆弾テロが起きていた。97年2月にはイーニン(伊寧)でバス爆破テロ事件・大規模暴動、99年2月には300人のウイグル族と当局が衝突、2000年9月には朱鎔基首相(当時)が訪問中のウルムチでトラックが爆発、約240人の死傷者を出すなどの事件が発生している。これら事件は分離・独立派の犯行とみられている。

 新疆ウイグル自治区の独立運動は、ソ連崩壊で独立したカザフスタン、キルギス、タジキスタンの3カ国などに住む数十万人の在外ウイグル族の一部がインターネットや出版物を使った宣伝活動や武器運搬などで中国国内のメンバーと連携しているとみられている。

 一方、中国は「貧困はテロの温床になる」として経済成長を重視し、道路・鉄道などのインフラ整備を拡大させてきた。産児制限の免除や大学への優先的入学など優遇政策も実施してきたが、これら政策を上回る不満が底流にある。

 昨年、ウルムチ市内の一角はウイグル族の失業者であふれかえっていた。「漢族との経済格差は広がるばかり。豊富な天然ガスなど天然資源も漢族に収奪される」との不満は強く、中国語をあえて話さないウイグル族も多い。農村部のウイグル族女性を遠方の沿海部に移住させる政策も反感を呼んでおり、五輪に照準を合わせたテロ攻撃の可能性に現実味が出ている。

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