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2008年07月26日(土) 12時01分

宇都宮地裁判事ストーカー:初公判 「思い上がり」反省 被害女性は厳罰望む /山梨毎日新聞

 今まで多くの被告を裁いてきたベテラン判事が一転、部下の女性に対するストーカー規制法違反罪で、法廷の被告席に立った。25日に初公判があった宇都宮地裁判事、下山芳晴被告(55)。甲府地・家裁都留支部長時代に良好な関係だったという女性が他の男性と交際を始めたことを知り、「(女性を)私がどうにかしなければ」などと思って匿名メールを送るようになったが、「思い上がりだった」と自省するようになったという。懲役6月が求刑された裁判の判決は、8月8日に言い渡される。【藤野基文、曹美河】
 ■動機
 「メールを被害者の交際相手が見れば、被害者との交際を考え直すかもしれない」。検察側は、下山被告がメールを送った動機を明らかにした。
 下山被告と女性は当初、お互いに悩み事を話し合い、食事やドライブに行くなど良好な関係にあったというが、女性が昨年12月ごろ、他の男性と交際を開始。女性は下山被告を避けるようになった。
 これに対し、男性との交際を好ましく思っていなかった下山被告は、2人を別れさせようと女性に忠告するなどしたが、女性は迷惑がり、下山被告のプライドが傷つけられたという。
 下山被告は書面で「転勤が予想され焦りがあり、女性にとって特別な存在でありたかった」との思いも明らかにした。
 ■心の穴
 弁護側は、下山被告がストーカー行為に走った背景に「心の穴」があったと指摘した。
 下山被告は10年ほど前、東京都豊島区目白に超高級マンションを購入。ローン返済のため、親族や友人から借金しなければならないほどで、経済的に破綻(はたん)していたという。
 長期にわたる単身赴任生活にも孤独を感じていた。甲府地・家裁都留支部から宇都宮地・家裁足利支部への異動を打診された時も、異動後も続く単身生活を考え、「1日考えさせてほしい」と即答しなかった。
 下山被告は匿名メールを送りつける一方、善意の第三者を装い女性の相談に乗っていた。自ら県警に捜査依頼したほか、女性に届いた匿名メールに都留支部長名で「警察に被害を届け出る」とストーカー行為を警告する自作自演のメールを送り、女性にも見せていた。
 検察側は自分の力を女性に誇示したかったためと指摘したが、弁護側は下山被告が自らの行為を犯罪であると分かっていたと主張。警察に相談したり、匿名メールに自ら警告を出したのは、事態が収拾する状況を作り、自分のストーカー行為に歯止めをかけようとしたためとした。
 下山被告は、メールを送っていたインターネットカフェに会員登録の削除を依頼し、証拠隠滅を図ったとも取れる行動をしていたが、下山被告は「4月に異動が決まっていたから」と弁明した。
 ■謝罪
 「この裁判は単なるストーカー裁判でなく、下山芳晴の全人生が裁かれると思っている」「被害者につらい思いをさせて申し訳ない。償いはどんなことをしてもしたい」。公判中、下山被告は何度も反省の弁を述べた。
 弁護人による最終弁論で、逮捕後に妻の父が持病を悪化させて7月に亡くなり、葬儀にも参列できなかったことに話が及ぶと、涙をこらえるように顔をしかめ、上を向いた。
 「法律の世界にいるのは許されないと考えている」といい、宇都宮地裁所長らに口頭で辞職の意向を伝えたという。
 一方、女性は「裁判官という人から信頼される立場でありながら、相談に乗る振りをしてストーカーメールを送り続けたことは許せない」と厳しい処罰を望んでいるという。
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 ◇ストーカー事件の経緯◇
2月19日 不審メールが女性に届く
3月ごろ  下山被告が警察庁幹部に相談
  17日 下山被告が山梨県警に捜査依頼
  18日 女性が県警に相談
  20日 メールがとまる
4月 1日 宇都宮地・家裁足利支部に異動
  10日 女性が県警に告訴
  23日 下山被告が宇都宮地裁判事に異動
5月21日 県警が下山被告を逮捕
6月10日 甲府地検が下山被告を起訴
  16日 最高裁が裁判官訴追委に訴追請求
7月 7日 訴追委が下山被告を事情聴取
  25日 甲府地裁で初公判

7月26日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080726-00000050-mailo-l19