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2008年07月25日(金) 14時33分

【ストーカー判事初公判(9)】「品行方正なパパに戻ります」男から父親の立場に産経新聞

 《検察官による被告人質問は、最終盤にさしかかった。下山被告は小声だが、沈黙することなく、質問にしっかりと答えている。被害者のことを裁判でよく使われる「被害女性」と呼ぶなど、さすがに法廷には慣れた様子だが、検察官の追及は厳しい》

 検察官「被害者からの相談をうれしいと思ったことはなかったのですか」
 下山被告「それはないです」

 検察官「3月15日、ストーカー犯人にあてて、ストーカー行為にあたると警告のメールを支部裁判官の名前で送っていますよね。なぜですか」
 下山被告「ちょうど土日にかかる時(15日が土曜日)で、18日(火曜日)までの間に何かされるのではないかと被害女性が私に言ったので、何か起きないようにするにはどうすればいいか2人で話し合い、警告すれば止められるのではないかという話の流れになりました」

 検察官「でも犯人はあなただったんでしょ?」
 下山被告「はい」

 検察官「私です、と打ち明ければ良かったのでは?」
 下山被告「その後、今日も出ていないメールで言いました」

 検察官「なぜ(自分だと)告白しなかったのですか」
 下山被告「先ほど述べた通りです」

 検察官「もう一度言ってください」

 《検察官は、しつこく聞き直す。下山被告は、観念したように小声で答えた》

 下山被告「勇気がなかったから…」

 検察官「自分の力を示す気では? あえて芝居をしたのでは?」
 下山被告「違います」

 検察官「反省しているんですね?」
 下山被告「はい」

 検察官「終わります」

 《被告人質問が終わった。下山被告はしっかりとした足取りで、弁護人側にある席に戻った。しかし、緊張していたのだろうか。いすに腰掛けると、大きく息を吐いて天を仰いだ。続いて、検察官の論告の読み上げが始まった》

 検察官「本件犯行は、取り調べ済みの証拠で証明十分である。次に情状ですが、第三者を装って1カ月にわたって、監視していると思われる内容を送り、困惑する被害者から相談を持ちかけられたのをいいことに、親身に応えるかのように装い、演技までして被害者の心情をもてあそんだ。被害者が厳罰を求めるのは当然だ」
 「恋愛感情を充足させる目的があったと評価されることに意義はない、と犯行の認め方も消極的。ストーカーにありがちな、相手の心情に無頓着な人格の表れで、被告による犯行の根深さは明らかだ。司法制度改革の流れの中、現職の裁判官によるストーカー行為という犯罪が社会に与えた衝撃は大きく、司法制度に対する国民の信頼が損ねられ、厳罰に処す必要がある。懲役6月に処するを相当とする」

 《求刑が出された。懲役6月は、被害者の告訴をもとにストーカー規制法違反罪で起訴されるケースではもっとも重い量刑となる。しかし下山被告は覚悟していたのか、その表情に変化はない。続いて弁護人が立ち上がり、最終弁論を読み上げ始めた》

 弁護人「下山被告は大きな影響を認識しつつ、事実を認め、反省している。裁判官としての最後の責任を果たすべく、訴追に素直に認めている。執行猶予付き判決が相当と考える」
 「今回の事件の背景にはまず、経済的破綻(はたん)があった。下山被告は東京・目白に高級マンションを購入し、当初は賃借人がいましたがいなくなり、ローンの支払いに窮するようになった。税金の差し押さえを受け、実母、実弟の援助を受けたが、平成19年6月には競売となり売却された。本人の見通しの甘さがあったとはいえ、下山被告の心には虚脱感があった。そのころ、被害者とドライブや飲食を重ねるようになった」

 《弁護人は、苦しい経済的事情が、下山被告が被害者に恋愛感情を抱くようになったきっかけになったと主張した。さらに山梨での単身赴任がこの感情を後押ししたと言いたいようだ》

 弁護人「妻は都内で教員をしており、下山被告は単身赴任だった。宇都宮地裁足利支部への転勤が伝えられ、これも単身赴任を求めるものだった。55歳という年齢を考えると、定年間近の長期間を単身赴任しなければならず、下山被告は『(異動は)1日考えさせてほしい』と返答を留保したくらいだ」
 「下山被告は被害者と親しくなった後も、自分の存在が負担にならないように考えていた。11月に送ったこんなメールがある。『ひょっとするとVさんをずいぶん束縛しちゃってるのかなと心配です。言ってくれれば品行方正なパパに戻ります』。その後、被害者はある男性と付き合うことになり、下山被告は男性としての立場から、父親の立場になることになった」

 《パパの立場でいようと決心したという下山被告だが、下山被告と距離を置こうとした女性の態度が許せなかったようだ》

 弁護人「下山被告は(被害者と男性を)別れさせようとメールをしたが、相手の男性と直接話すことはやめてくれと女性から言われた。女性が距離を置き始めたことは、名誉ある撤退を望んでいた下山被告のプライドを傷つけた。今年2月、異動までの日数が少なくなり、下山被告は被害者との良好な関係を取り戻したいと考えた」

 《弁護人は、異動を前にあせる気持ちが、下山被告を犯行に駆り立てたと指摘した。あらかじめ内容を伝えられているのか、下山被告はメモを取ることもなく、黙って聞いている》
     =(10)に続く

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