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2008年07月25日(金) 13時43分

【ストーカー判事初公判(4)】示談応じぬ被害女性 法廷には弟「苦労の司法試験」証言産経新聞

 《弁護人は、下山被告が現在の心情を文書にした陳述書を裁判所に提出した。弁護人は、その内容についての説明を始める》

 弁護人「(陳述書には)被告人がこれまで、恋愛感情や自分が(女性の)父であるような感情を持っていたこと。また、この裁判では(自らの行為が)単なるストーカーであったことを認め、この公判が下山の全人生が裁かれる裁判だと考えて、真剣に向き合っていること。いま振り返ると、多くの思いこみがあったように思い、恥ずかしさを禁じ得ないという趣旨のことが書かれております」

 《弁護人は、ほかにも下山被告が借金で苦労していたことや、女性と交際を始めた経緯などが書かれていると説明した後、犯行に至った経緯について書かれた部分の代読を始める》

 弁護人「今年の私の異動が近づき、私の中に焦りのような気持ちが沸き起こりました。被害者にとって、自分が特別な存在でいたいと思うようになり、55歳と20代の女性で、職場の上司と部下という関係でありながら、年がいもなく彼女を女性としてみる気持ちが強くなりました」

 弁護人「『いろいろな意味で彼女を満足させていないのでは』と思うようになり、仕事の関係で彼女とドライブにもいけず、彼女は(別の)男性との交際を深めていきました」
 弁護人「彼女を取り戻そうと、彼女にストーカーメールを送りつけました。彼女へのメールを男性が見ることで、彼女との交際が終わるだろうと信じて疑いませんでした。いま思い返すと、恥ずべきことですが、そのときは思い込みから気づきませんでした」

 《ここまで弁護人が一気に読み上げた。下山被告は目を閉じ、天井を仰ぎ見るような姿勢のまま、じっと聞き入っている》

 《弁護人は被害者へのおわびに関する文言を読み上げる》

 弁護人「被害者にはただただおわびの気持ちでいっぱいです。自分の犯したことで、彼女にとって知られたくないことが明るみに出されてしまった。今は自分の愚かな行為を恥じるばかりです」

 《その後、弁護人は下山被告側が女性側と6回にわたり面談をしたが、示談が成立していないことを説明した文書や、和解に尽力した東京の弁護士へのお礼の手紙などを証拠として提出して席に着く》

 《続いて弁護側が呼んだ情状証人への質問が行われる。1人目は下山被告の実弟だ。傍聴席にいた男性が立ち上がり、証言台に向かう。下山被告の弟は、白髪交じりのひげを蓄え、腕まくりした黄色っぽいシャツにネクタイ姿だ》

 弁護人「あなたは下山被告の1歳違いの弟ですね」
 弟「はい」

 弁護人「ほかに兄弟は?」
 弟「おりません」

 弁護人「両親は健在ですか」
 弟「父は3年前に亡くなり、母は実家で隣家に住んでいます」

 弁護人「母親は病気で入院中と聞きますが」
 弟「はい。おっしゃる通りです」

 弁護人「芳晴さんはあなたにとって、どんな存在ですか」
 弟「私は尊敬する人と聞かれれば、兄と答えます。正義感が強く、よく勉強をする。いつも私をうまく導いてくれる人でした」

 弁護人「芳晴さんは学生のときに大きな病気をしたといいますが」
 弟「はい。子供のころから肺の難しい病気で、司法試験を前に手術を受け、洗面所で大量の血を吐いて、あぶない状況になったこともあります」

 弁護人「そんな中、司法試験を頑張ったんですか」
 弟「はい」

 弁護人「芳晴さんは司法試験に受かってから結婚しましたね。結婚をしてからは?」
 弟「しばらくはつきあいを続けていましたが、家族同士は非常に淡泊で、仕事の関係もあり、次第に疎遠になりました」

 弁護人「徐々に距離ができたんですか」
 弟「はい。お互いに結婚をしているので当たり前かなと」

 《ここで話題は下山被告の借金についてに切り替わる》

 弁護人「芳晴さんが父親に金のことで相談にいったことは?」
 弟「はい。あります」

 弁護人「いつごろですか」
 弟「平成10年ごろだと思います」

 弁護人「父親は金を出しましたか」
 弟「はい」

 弁護人「金額は?」
 弟「詳しくは知りませんが、あまりにも大きな額で」

 弁護人「100万円単位でなく、もう一けた上の数字ですか」
 弟「はい」

 《借金は1000万円単位だったようだ》

 弁護人「芳晴さんは東京都豊島区目白に大きな家を持っていますが?」
 弟「それは何軒目かのマンションです。バブルのすぐあとで、関西の感覚からすると分かりませんが、マンションの金額としては高額なものと思います」

 弁護人「父は経営者で金銭的に余裕があったかもしれませんが、負担になっていたのでは?」
 弟「新しい借金をしたり、従業員を抱えていますから…」

 《弟の声が小さくなる。家族の恥部を明かすことへの抵抗からか、うつむき加減になり、かなり聞き取りにくい》

 弁護人「父親が亡くなり、芳晴さんが(弟に)金策に来たことは?」
 弟「ありました」

 弁護人「何に使うという説明はありましたか」
 弟「(説明は)一応するのですが、内装や修繕などですが、金額から考えるとよく分からなかった。大阪にいるので分からないことが多かった」

 弁護人「事件はどうやって知りましたか」
 弟「テレビを見ていた家内から連絡があって」

 弁護人「それ以前に(下山被告から)連絡は?」
 弟「逼迫(ひっぱく)していた電話があって『とにかく大変だから』と。ただ、借金の話と同じように、日常のことと思っていた」

 弁護人「逮捕後に面会は?」
 弟「拘置所で」

 弁護人「芳晴さんへの思いは?」
 弟「まだ信じられない。信じたくない。苦労して司法試験を通って結婚して、子供はできたのですが生まれる前に流産して…。『3人で最高の家族を作りたい』と言っていたのに、一方通行のことが多くなって。いまでもどうしてそんなことをしたのか…」

 弁護人「芳晴さんは今後、経済的や仕事の面でも多くのものを失うことになると思うが」
 弟「それが大きな過ちのためと思うと、本当残念。過ちはやり直せると思う。過ちに気づいたのなら、長い時間がかかっても…」

 《声が小さくなり、後半部分はほとんど聞き取れない。消え入るような声で話す弟を前に、下山被告は何を思ったのか。ただ目を閉じたままだ》
    =(5)に続く

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