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2008年07月25日(金) 12時17分

女性より猫に夢中な男性たち〜亀山早苗コラムオーマイニュース

 久々に会った悟さん(33歳)が、妙に生き生きとしている。つい半年前には、つきあい始めたばかりの女性に、

 「あなたみたいに決断力のない男性とは、やっぱりつきあえない」

と手厳しく振られて落ち込んでいたのだが。新しい彼女でもできたのだろうか。

 「まあね、同居人がいるんです」

とにやにや。

 押しの弱い彼にしては素早い行動だと思っていると、「同居人というのは違いますね。子猫と一緒に暮らしてるんです」

 彼女に振られたあと、悟さんは仕事に打ち込んだ。打ち込みすぎて身体を壊し、2カ月ほど前に入院するはめになってしまった。地方に住む親を心配させるのもしのびなく、かといって身の回りの世話を頼むような女性はいない。男友だちには何となく連絡しそびれた。結局、入院から退院までひとりでこなした。2週間の入院中、見舞いに来てくれたのは会社の同僚と上司だけ。

 「たいした病気じゃないから、わざわざ連絡しなかったんだけど。それでも、心底、オレのことを心配してくれる人なんて、この世にいないのかもしれないなあと寂しくなりましたね」

 ひとりで荷物をまとめて退院、タクシーで自宅に戻った。退院が金曜日で、翌週月曜日から出社するつもりだったから、夕方になって、週末の食料を買い出しに出掛けた。

 「その帰りに、ミミちゃんを見つけたんですよ。あ、ミミちゃんって猫の名前なんですけどね」

 彼の顔が急に輝く。学生時代はラグビーをやっていて、今もがっしりした体格の彼の、口から、“ミミちゃん”という言葉が出てくるのが、なぜかおかしい。

 「マンションの近くの植え込みから、ミーミーと消え入りそうな声が聞こえたんです。よく見ると、小さな箱から小さな猫が顔を出していて……。箱に『お願いです。どなたかこの子を飼ってやってください』と書いてある。捨てたくて捨てたんじゃないんでしょうね。まだ目もろくにあいていないような感じで、とてもそのままにしておけない。思わず連れ帰ってしまったんです」

 ネットで近くの動物病院を調べ、すぐに連れて行った。衰弱はしているが、幸い、命に別条はない。飼い方を教わって、その日から同居し始めた。

 「かわいいんですよ。僕が仕事で遅くなっても、帰ると必ず玄関まで出迎えてくれる。部屋の中でも僕のあとをずっとついてくるんです。仕事がうまくいかないときに愚痴ると、真剣に顔を見て聞いてくれるし」

 女の子よりずっといい、なんて言い出すんじゃないのと茶々を入れると、悟さんはまじめな顔をして、こう言った。

 「今はそう思ってますね」

 それから急に気づいたかのように、

 「これってまずいですかね」

 そしてさらに言葉を継いだ。

 「みんなに言われるんですよ。彼女ができて、その彼女が猫アレルギーだったらどうするんだって。でも、猫アレルギーの彼女より、僕はミミちゃんをとりますね。退院直後のなんだか虚(むな)しいときに出会って、僕の人生、変わりましたから」

 これもまた出会いなのだろう。携帯電話の待ち受け画面は、ミミちゃんのアップの写真だった。確かに愛らしく、かわいい。夢中になるのもわからないではない。

 一時期、犬を飼う独身女性は結婚が遠くなるなどと話題になったことがあった。時代は移り変わり、男性たちがペットを飼って、女性から縁遠くなると言われるようになっていくかもしれない。

 だが、ペットを飼う女性たちは、結局、「生身の男のほうがいい」と口をそろえて言っていた。しかし、悟さんを始め、かわいい犬や猫を飼っている男性たちは、どこかで「女性よりいい」と本気で思っている節がある。

 「猫好きの女性と知り合えば問題ないわけですよね。『うちにかわいい猫がいるから見に来ない?』と誘うこともできる」

 悟さんは、そう言ってはいたが、数人で集まっていた会合の二次会には行かず、「ミミちゃんが待ってるから」と家路を急いだ。

(記者:亀山 早苗)

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