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2008年07月25日(金) 12時38分

【ライブドア事件】判決要旨「故意、共謀認定」「反省の情ない」と1審支持産経新聞

 ■主文
 控訴を棄却する。控訴審における訴訟費用は被告人の負担とする。

■写真で振り返る■ 堀江被告、太ったり痩せたり…いろいろあった8年間

 ■理由の要旨
 《1審判決の概要》
 1審・東京地裁判決は、堀江貴文被告が宮内亮治被告らと共謀の上、(1)ライブドア子会社のバリュークリックジャパンにおけるマネーライフ社との株式交換や平成16年12月期第3四半期通期の業績に関し、虚偽の事実を東証のTDnetにより公表したという事実と、(2)ライブドアの16年9月末までの連結会計年度につき、自社株の売却益37億円余りとキューズ・ネットなどに対する架空売り上げ15億円余りを計上するなど、虚偽記載のある有価証券報告書を関東財務局に提出したという事実を認定している。
 そして、(2)のライブドア株の売却などに登場した投資事業組合の評価が争点の一つであったところ、1審判決は「ダミーというかどうかは別として、会計処理の潜脱という脱法目的で組成されており、当該の取引ではその存在を否定すべきである」と説明している。

 《控訴趣意の概要》
 主な控訴趣意は、訴訟手続きの法令違反=組合の評価に関する判断は1審の公判前整理手続を無視した不意打ちである▽事実誤認=共犯者の宮内被告らの供述の信用性、TDnetにより公表した内容や提出した有価証券報告書の虚偽性、堀江被告の故意や共謀の有無など▽量刑不当=懲役2年6月の実刑は重すぎる−である。

 《控訴審の判断要旨》
 ・組合についての評価に関する1審判決の判断は、実質的には、1審で検察官が公判前整理手続の段階から主張していた内容と同一である。1審判決に訴訟手続の法令違反はない。
 ・宮内被告らの供述は、供述した経緯やその内容、他の関係者の供述内容と符合することなどから、信用性は高い。そして、この高度な信用性を認め得る宮内被告らの供述のほか、関係者の供述や堀江被告と共犯者とのメールの内容などによれば、マネーライフ社との株式交換や業績に関して公表した内容はいずれも虚偽であること▽自社株の売却益37億円余りの計上に登場した組合は、会計処理の潜脱という脱法目的で組成されたものであり、結局許されない利益計上がされていること▽15億円余りの架空売り上げが計上されていること▽有価証券報告書は重要事項に虚偽があること−などを認定できる。1審判決に事実誤認はない。
 ・1審判決の「量刑の理由」の内容は、おおむね相当として是認できる。
 この犯行は、ライブドアなどが飛躍的に収益を増大させて成長性が高いとして実際の業績以上に誇示し、有望で躍進しつつあると社会向けに印象づけ、ひいては自社の企業利益を追求したものだ。その戦略的意図などには賛同できない。投資者保護には有用な有価証券報告書やTDnetというディスクロージャー制度の信頼を損ね、制度を根底から揺るがしかねない犯行であり、強い非難に値する。
 犯行態様も、実態の不透明な組合を組成し、ライブドア株の売却に形式的に介在させ、売却益がライブドア側に還流している事実の発覚を防ぐために、組成日付をさかのぼらせるまでした。監査法人や公認会計士も巻き込み、巧妙かつ複雑な仕組みを構築しており、悪質だ。
 犯行結果をみると、株式投資などの健全な発展を阻害し、投資者保護の面で深刻な悪影響を及ぼしている。上場廃止を受け、多数の株主に投下資本の回収を極めて困難にして損害を被らせた。また、関連企業などだけでなく社会一般にも少なからず影響を与えているとうかがえ、結果は重大だ。
 事件では、堀江被告をはじめとする経営陣が、上場企業としての社会的責任などを顧みず、自ら主導し、あるいは事業部門の担当者や子会社の者に指示を出すなどして、組織的に敢行した。ライブドアの最高責任者として、堀江被告の指示・了承がなければ、これらの犯行の実行はありえず、堀江被告の果たした役割は重要だった。
 1審判決の「堀江被告は、自己の認識や共謀の成立を否定するなどして犯行を否認し、公判でも、メールの存在などで客観的に明らかな事実に反する供述をするなど、不自然、不合理な弁解に終始しており、反省の情はまったく認められない」との指摘は是認できる。堀江被告の規範意識は薄弱で、潔さに欠けるといえる。
 控訴審取り調べの堀江被告の「上申書」によれば、「今では、1度に100分割するのではなく、もっとゆっくり分割していけばよかった。少し急ぎすぎたのではないかと反省しています」とか、「株式市場に対する不信を招いてしまったことは悔やんでも悔やんでも悔やみきれません」などと現在の心境をつづっているが、犯行についての反省の情はうかがえない。
 以上によれば、堀江被告の刑事責任を軽視することはできないが、弁護人がいろいろと反論しているので、その主なものについて判断する。
 最初は、「過去の粉飾決算事例などと比較して、粉飾金額などが少なくて軽微である」との反論について。確かに単純に比較する限り、粉飾金額自体は少ない。しかし、中心的な量刑因子は事例ごとに異なり、粉飾金額が多いか少ないかだけが決め手になるわけではない。
 1審判決の「損失隠蔽(いんぺい)型」と「成長仮装型」とに分けての評価、すなわち後者では粉飾金額が高額でなくても犯行結果は大きいとする評価は注目すべきであり、本件での結論としては是認できる。もっとも、一般的にこの評価の手法が正しいと言い切るには、まだ事例が少ないように思われる。
 また、過去の粉飾決算事例の悪質性を強調したり、関係被告人の多くが執行猶予に付されているなどというが、引用摘示する事例は、量刑上参考資料となるものの、受訴裁判所でない以上、その具体的内容を性格に知ることはできない。
 次に、ライブドア株式の株価につき、粉飾した業績の公表や株式分割により不正につり上げられたものではないという。しかし、株価推移をみると急速に値がありしている。株価の上昇原因が単一でないことは当然であるが、粉飾した業績発表や度重なる株式分割という人為的なものも影響していることは否定できない。
 さらに、株式分割については、東証が当時積極的に推奨していた制度でもあるともいう。確かに、東証が平成13年8月ごろ、上場会社に対し、個人投資者層を拡大するとの観点から、投資単位の引き下げ促進について協力要請した事実がある。しかし、ライブドアにおいては、約1年間に10分割、100分割、10分割と3度も、延べにすると1万分割という株式分割を実施しているところ、東証は、このような極端な株式分割とか、それによる弊害について想定していなかったものと推察できる。極端な株式分割の実施は、投資者の投機心をあおるという側面は否定できない。
 3番目に、ライブドア株式が急落したのは、本件の強制捜査が原因であり、有価証券報告書提出の発覚が直接の契機ではないという。しかし、堀江被告らが犯罪にかかる行為に出たから捜査が開始されたのであって、まさに1審判決の「本件発覚後、株価が急落し」のとおりといい得る。
 4番目に、本件当時は、組合において出資元の自社株(親会社のものを含む)を売却した場合の株式売却益に基づく配当金の計上方法について、企業会計の実務において明確な指針はなかったから、「会計処理を潜脱」などというのは当たらないという。しかし、実務においては、自社株式の処分差益は「その他資本剰余金」に計上するとの確立した基準があったものの、組合を介在させて悪用するような事例を想定しておらず、悪用防止のための会計基準とか指針を確立していなかった状況下で、本件(2)はその点に着目して、まさに悪用したものである。
 最後に、堀江被告が平成17年にライブドア株約4000万株を売却して約140億円の資金を得ている点に関し、本件とは無関係であり、この点を量刑上不利益に考慮すべきでないという。しかし、堀江被告は本件犯行を含め、それまでに株式の時価総額を増大させて、自己保有株式の資産価値を増大させ、そして売却により多額の資金を得ていることは事実である。1審判決はこの事実をとらえ、「結果的に、犯行による利益を享受している」とし、「量刑上、看過することはできない」としているにすぎないもので、是認できる。
 その他、所論が1審判決の量刑理由について論難する諸点を十分検討してみても、是正すべきような誤りはない。
 そうすると、堀江被告が、ライブドア・グループのすべての役職を辞したこと、マスコミなどでこの事件が社会的に大きく取り上げられ、厳しい非難にさらされるなど、一定の社会的制裁を受けていること、前科前歴がないことなどの酌むべき事情を最大限考慮しても、本件が執行猶予を付すべき事案とまではいい難い。堀江被告を懲役2年6月の実刑に処した1審判決の量刑は、その刑期の点においてもやむを得ないものであって、これが重すぎて不当であるとはいえない。

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