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2008年07月24日(木) 11時46分

「社畜」の日本型雇用をどう見直す?オーマイニュース

 今年の「労働経済白書」(7月22日発表)は非正規雇用や格差問題というタイムリーなテーマについて分析したため、新聞などのマスメディアは一斉に取り上げた。

 論調は大体同じで、「仕事の満足度が低下」「生産性が低下」した点を取り上げ、これらは成果主義の導入や非正規雇用の増大がもたらした結果であり、終身雇用や年功序列といった「日本型雇用」の再評価に結び付けている。労働市場の行き過ぎた規制緩和に歯止めをかけようという、一種の揺り戻し現象と言ってもいい。

 ここで、「日本型雇用」について、おさらいしてみたい。私のような団塊の世代にとって、終身雇用と年功序列の世界は経験済みだから、手に取るように理解できる。

 一度、ある会社に入ったら、原則として定年前後まで辞めない。一つの会社の中で営業、総務、企画など、さまざまな部署を体験して、その会社のプロになる。よその会社には通用しないから、転職もない。

 若いころの給料は安いが、妻子を何とか養える分ぐらいはもらい、それも年々上がり続けるため、住宅ローンや出産計画などは立てやすい。

 少なくとも、同期入社の給料の差はあまりなく、長年の勤務で評価された者は役員に昇格し、昇格しなかった者は退職金をもらい、年金年齢になるまで関連会社に“天下り”する。この辺が、大方の大企業のサラリーマン像だった。

 こうした人生は会社と運命をともにするため、会社のためなら悪事も辞さない大量の「会社人間」を生んだ。また、男性サラリーマンにそこそこ給料を出す代わりに、女性は専業主婦として家庭に押し込められ、夫は長期転勤にも単身赴任にも従うしかなかった。

 これらが「日本型雇用」の実像だ。

 今思えば、「雇用が安定していた」「給料が確実に上がった」と美点ばかりが目立つのだろう。まさか、「社畜」という差別用語まがいの批判が飛び交い、「女性差別」が当たり前だった当時の労働慣行が見直されようとは夢にも思わなかった。

■終身雇用も「一時代の産物」

 現在の労働市場の欠陥を是正するという意味での見直しなら、意味がないこともない。しかし、昔のような「日本型雇用」に戻そうというなら、それはもうできない相談だ。なぜなら、終身雇用や年功序列を支えてきた豊富な労働力や経済成長の持続が望めなくなったから。

 じつは、終身雇用や年功序列は、たかだか戦後の半世紀ぐらいに定着した労働慣行に過ぎず、決して「日本文化に根ざした制度」でも何でもない。日本の戦後復興と高度成長に都合が良かったから主流になっただけだ。

 今できる対策と言うなら、やはり正規雇用と非正規雇用の格差の壁を低くすることではないか。

 少なくとも、どちらの雇用形態で働いても、社会保障や職業訓練などを公平に受けられる機会の平等は確保されなければならず、その責任主体は政府や自治体にある。これこそ、役所用語でいう「喫緊の課題」であろう。

(記者:本間 俊典)

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