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2008年07月24日(木) 14時38分

<子どもとゲーム>(3)「ゲーム脳になっちゃうわよ」影響は未解明毎日新聞

 学校から来たお知らせを読み、思わずうめいた。「脳の働きが弱っているので、テレビゲームの時間を控えてください」。小学5年生の長男の脳波の測定結果だ。母(38)は長男がゲームにのめりこむと、「ゲーム脳になっちゃうわよ」と注意するようになった。

 埼玉県川口市立東本郷小は04〜07年、ゲームが脳に及ぼす影響を探るため、希望者の脳波を測定した。「うちの子も外遊びが減ったからいけなかった」と母。長男もショックを受け、「30分ゲームしたら30分休む」ルールを守るようになった。

 測定に協力したのは日本大の森昭雄教授(脳神経科学)。02年、脳波の測定結果から、ゲームをしすぎている人は脳の司令塔となる前頭前野の活動が鈍っていると発表した。著書「ゲーム脳の恐怖」は版を重ね、発行部数は12万部を超えた。

 森教授は「ゲーム脳タイプの人は、落ち着きがなく意欲も低い。ゲームを全否定するわけではないが、1日最大30分までに制限すべきだ」と話す。

 しかし、ゲーム脳への批判は少なくない。脳の活動低下で「キレやすくなる」という主張に対しては、「飛躍だ」との声も出る。

 日立製作所基礎研究所フェローの小泉英明さん(脳科学)は「前頭葉は高度な判断を担う。熟考の必要のない対戦系ゲームをした時は動かない、ということだ」と説明する。小泉さんも02年、脳の血流を測る光トポグラフィーという手法で、ゲーム中の人の脳を観察した。ゲームの種類によって、前頭前野が活発化することもあると確認した。

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 ゲームは子どもの心と脳にどんな影響を及ぼすのか。暴力的なゲームをした後の心理状況を調べる実験が一般的だが、成育環境の異なる人たちを比べても普遍的な結果は得られにくい、とされる。

 小泉さんは「ゲームをする子としない子で、社会性やコミュニケーション能力がどう育つのか、集団追跡する手法が最も有効だ」と話す。独立行政法人・科学技術振興機構は05年、0歳児500人の追跡調査を始めた。行動をビデオに記録し、親に生活環境などを問診する。継続的に子どもの成長を追い、脳科学の視点から探る。しかし、「さらに調査を続ける準備が不十分」として、ゲームの影響が全く解明されぬまま、今年度で終わる。

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 学校近くでゲーム機を手にたむろする子を見ると、東本郷小の村田文男校長は「なるべく外遊びをしなさい」と注意する。人間関係を作るスキルが養えなくなるのが心配だからだ。同小に4人の子を通わせる母(33)も、家に遊びにきた小学生が黙々とゲームをしていると、「帰りなさい」と一喝する。

 「人は言葉を手段として意思疎通し、顔を突き合わせて相手の気持ちを読み取る。顔を見ない遊びに熱中していると、人の気持ちを推測することが困難になり、コミュニケーション能力の発達が鈍る恐れはある」。理化学研究所神経回路メカニズム研究グループの津本忠治グループディレクター(脳科学)は指摘する。

 懸念を検証する研究結果は当分、得られそうにない。

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