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2008年07月23日(水) 12時28分

<八王子殺傷>製造業の「派遣」転々…菅野容疑者毎日新聞

 東京都八王子市の駅ビルで22日夜起きた刺殺事件で、殺人未遂容疑で逮捕された菅野昭一容疑者は、勤務先の板金加工会社(八王子市)によると、この数年間、八王子市内の製造業数社を派遣社員として転々としていたという。

 4月下旬に同社の求人広告を見て応募。5月8日から15日まで1週間働いた。仕事は主に板金加工を担当。黙々と作業をこなし、他の従業員とのトラブルはなかったという。

 4月下旬に菅野容疑者と面接した専務(30)は「受け答えもしっかりしていて誠実という印象だった。『以前は組み立て作業をやっていた。できることはなんでもやります』とハキハキと答えていた」と振り返る。採用を決め、1カ月の試用期間を経て正社員として採用することを伝えると、菅野容疑者は「わかりました」と答えていたという。

 ところが、菅野容疑者は5月15日午後、作業中に作業台に誤って右手をはさみ中指など3本を骨折。市内の病院に搬送され手術を受け入院した。菅野容疑者の父親は「以前に勤めた会社でも作業中に転落して足を骨折したことがある」と落胆した様子だったという。

 専務によると、5月下旬に社員4人で見舞いに行った際には、菅野容疑者は「皆さんにご迷惑をおかけして申し訳ない。早く治したい」と冗談も交えながら談笑していたという。見舞いに行った男性社員は「けがで悩んでいる様子には見えなかった」と話す。

 菅野容疑者は6月中に退院し、7月17日には退院後初めて社長と面談した。「9月くらいには復帰できそうです。また働きたい」と再起に意欲を見せていたという。労災の手続き中で、休業補償の支払い方法を話し合っている最中だったという。専務は「今週に具体的な日程を調整する予定だった。仕事でプレッシャーがあったのか……」と言葉をつまらせた。【神澤龍二】

 ◇「頭が真っ白」容疑者の父謝罪

 菅野容疑者の父親(69)は23日朝、八王子市内の自宅前で取材に応じ、「被害者と遺族の方には本当に申し訳ない」と頭を下げた。菅野容疑者が「家族と仕事のことでトラブルがあった」と供述している点については「何も相談はなかった」と否定した。

 父親によると、菅野容疑者は姉2人と弟1人の4人姉弟。市内の小中学校を卒業後、高校に進学したものの中退した。性格は内向的で、電気会社などでアルバイトをするなど仕事を転々としていた。

 また菅野容疑者は25歳ごろ、当時交際していた女性と暮らすために家を出て以降、実家にほとんど戻らなくなった。居場所を聞いても住所を答えず、携帯電話にも出なかった。その女性とは数年前に別れたという。

 父親が最後に会ったのは約1カ月前で、突然自宅に訪ねてきた。指の骨折は完治しかけており、「もうすぐ正社員になれるかもしれない。けがが治ったらまた働くんだ」と普段と変わらない様子だったという。

 事件は22日夜、報道陣の取材で知ったといい、「頭が真っ白になった。小さいころから気が小さく、あんな事件を起こす人間ではない」と淡々と話した。【古関俊樹、川崎桂吾】

  ◇成人と思えぬ供述

 ジャーナリスト大谷昭宏さんの話 大人になれない子どもだ。「むしゃくしゃして」「仕事がうまくいかなくて」などの供述は、33歳の成人の言葉とは思えない。会社との面談に父親が同席するなど自立できず、社会に溶け込めなかった。こうした自分本位な人間が増えているのではないか。自分一人で生きていける力をつけさせるという教育のあり方が、失われたことに起因する。社会全体で、取り組むべき問題だ。

 ◇疎外感募らせた末

 小宮信夫・立正大教授(犯罪社会学)の話 最近の通り魔やバスジャック、上越新幹線の落書きなどの事件には、共通した傾向がある。容疑者が社会からの疎外感を募らせた末、その打開を狙い犯罪に走るという構図だ。事件後の展開に想像が及ばない点も共通している。子供の時に家庭、学校、地域で他人にもまれる機会が減り、コミュニケーション能力が育たない世代が増えている。欧米では個人と社会のつながりを意識させる「市民性教育」が始まっており、日本でも同様のシステムを教育に取り込む必要があるだろう。

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