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2008年07月23日(水) 18時24分

30名の死者を出した「なだしお事件」から20年オーマイニュース

 ちょうど20年前、1998年(昭和63年)7月23日、「なだしお事件」が起きた。海上自衛隊の潜水艦「なだしお」と遊漁船の第1富士丸が衝突し、30人が亡くなった事故だ。今でも、悲しい事故として覚えている人が多いだろう。

 事故当時、マスコミは、なだしおが富士丸をよけるべきなのによけず、乗客も救出しなかったと自衛隊を追及したが、最近、それは偏った批判であったことを知った。

 まず、事件の概要を述べる。7月23日午後3時過ぎ、大島沖で訓練を行った「なだしお」は横須賀港に帰港しようと、浮上しながら横須賀沖の浦賀水道を西行していた。第1富士丸は京浜港横浜区から出航し、大島を目指して南下していた。両者は午後3時38分、浦賀水道で衝突。富士丸は沈没した。後者の乗員乗客 48人のうち、30人が亡くなった。

■回避義務

 海上衝突予防法の12条によると、たしかになだしおの方に回避義務があり、よけるのが大きく遅れたが、富士丸にも非があった。

 同法14条は、2艘(そう)の船舶が真向かいに近づいた時、両船とも右に舵(かじ)を切ると定めている。どちらも右に舵を切れば、ぶつからないからだ。この事件で、なだしおは舵を右に切ったが、第1富士丸は左に切った。だから富士丸にも非がある。双方に過失があったのに、マスコミはなだしおの山下艦長ばかり責め立てて、不当極まりなかった。

 第1富士丸の船体にも問題があった。もともと1980年(昭和45年)に進水した漁船で、古くなっていた。釣り船に改造したため、バランスが悪くなり、船首が上がって前がよく見えなくなっていた。また定員は44人なのに、この日は48人も乗っていた。富士丸にも問題があったのに、マスコミは潜水艦ばかりを批判した。

 しかし、自衛隊が海上保安庁に連絡したのは、事故が起きてから19分もたってから。それにより、救助が遅れた。自衛隊の責任も重い。

■なだしおの乗組員は助けなかったのか

 マスコミは、なだしおの乗組員が富士丸の乗客乗員を助けなかったと非難したが、これはまったくの間違いだった。

 富士丸に乗っていた女性の接客係(19歳)が「乗客などが次々と海に沈んでいったが、なだしおの乗組員は見ているだけで、助けなかった」と言ったものだから、マスコミは自衛隊を徹底的に糾弾した。

 だが、実際には、海に浮かんでいて亡くなったのは1人だけで、なだしおは3人を救助した。亡くなった人は船に閉じ込められて、海底に沈んでしまったケースが多かった。接客係の話は嘘(うそ)だったのだ。マスコミは証言を本当かどうか検証せずに、自衛隊たたきに利用したわけだ。

 メディアはまた、なだしおの乗組員が艦上に立つ写真を何度も紙面に載せたり、画面に映したりして、「おぼれている人を助けずに見ていた」などと非難したが、これも間違いだった。

 その写真は、救助が終わったころ現場に到着したマスコミが撮ったもので、事件が起きた直後の写真ではない。正当な報道をする気がないのか。自衛隊が嫌いなので、うそで追及してもいいと思っているのだろうか。とんでもないことだ。

■裁判では双方が有罪

 以上の論述は不十分かもしれないが、両者に責任があったことが分かって頂けると思う。

 報道とは違って、裁判ではなだしおの山下艦長と第1富士丸の近藤船長の両者に過失を認めた。高等海難審判所は事件の2年後、両者に同等の過失があると認定した。さらに2年後の刑事裁判では、主因は、なだしおだが、富士丸にも責任があると判断し、両者に禁固刑を下した。

 私はマスコミの偏った報道に左右されて、山下元艦長が嫌いになっていたが、今回調べたことで近藤船長にも責任があることが分かった。今年の7月6日には浦賀水道が望める観音崎で、遺族が慰霊祭を行った。

 2月には、イージス艦の「あたご」が事故を起こした。この時もマスコミは自衛隊を必要以上に追及した。

 1981年(昭和46年)には、自衛隊の戦闘機と旅客機が空中で衝突した雫石(しずくいし)事故が起きたが、マスコミはこの時も自衛隊ばかり非難したらしい。

 マスコミは護憲派で平和主義だから、自衛隊に反対だ。それで自衛隊が事故を起こすと、しつこいほど追及するのだろう。自衛隊がなかったら、どうやって国を守るのか。現実を無視して、イデオロギーから糾弾する報道は問題だ。国民は自衛隊を信頼しなくなり、そのため自衛隊員は国防の意欲を失ってしまう。それではいざという時に戦えない。

(記者:跡見 昌治)

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