記事登録
2008年07月23日(水) 13時22分

「大銀座落語祭」が押し拡げたものオーマイニュース

 2004年から毎夏、回を重ねてきた「大銀座落語祭」が21日、グランドフィナーレを迎え、盛況のうちに閉幕した。

 「大銀座落語祭」は、春風亭小朝、立川志の輔、笑福亭鶴瓶、春風亭昇太、柳家花緑、林家正藏の「六人の会」が中心になって企画・運営してきた東西の落語家が一堂に会する落語界最大のイベント。

 5年目の今年は「落語の明日」を年度テーマに、ファイナルと称して17日から5日間にわたり、13会場で50を超える有料公演、10余りの無料公演を行った(パンフレット記載分)。

 来年は、場所を移して10月に宮崎で開催とのこと。既に横浜での開催も構想されているようなので、今後は、全国で順次開催されることも考えられる。

 一昨年の9月、春風亭小朝は『いま、胎動する落語』(ぴあ)を上梓(じょうし)し(横浜開催構想は同書に記されている)、落語界の一層の活性化を熱く語ったが、『大銀座落語祭』の5年間の道程は、その思いを、象徴的に反映し具現化したものとなった。

 『大銀座落語祭』の最大の功績は、落語界のさまざまな垣根を取り払ったことである。

 それまでは厳然たる線引きの中で落語家たちを自在には行き来させていなかったの落語協会、芸術協会、立川流、三遊協会、上方落語等々といったそれぞれの枠組みが、『大銀座落語祭』では何の制約にもなっていなかった。融通無碍(ゆうずうむげ)に高座が組まれ、その気風は定席にも影響して、桂三枝が一昨年上野鈴本で10日間主任を務めたことは記憶に新しい。

 「落語が、来てる」などと言われ、ブーム到来とマスコミにはやし立てられているのも、この5年間のすう勢である。

 小朝は、前掲書で次のように語っている。

 「やっぱり落語というのはですね、守る、壊す、つくるという、この三つの作業をしていかないと絶対だめなんですね。それを、より明確にしていくことが大事だと思いますね」(前掲書194ページ)

 21日のグランドフィナーレにせんだって有楽町「よみうりホール」で行われたスペシャルプログラム『小朝、三枝、小三治の会』で見せた小朝の奮闘ぶりに、一大イベントを主催した「棟梁」としての気概と自負とがあふれ出ていた。

 幕があがると同時に、前座より先に高座にあがっての一席は、桂三枝の代表作「涙をこらえてカラオケを」。長らく小朝を聴き続けている者は、一様に驚がくしたはずだが、しかし、よどみなく自分のものとして演じきる様子に、確かな飛躍を感じとったのではなかったか。

 また、約30年前の真打ち昇進以後「十八番(おはこ)」にしている「お菊の皿」も、アキバ系とおぼしきダンスを取り入れ、思い切ったリニューアル。 1000人からの聴衆を一気に温めたその高座に、「落語の明日」というテーマを掲げた落語祭の大団円を飾ろうとする強い気持ちが表れていた。

 もしかすると、21日の二席は、今や小朝は志の輔ばかりでなく談春にも抜き去られた、との事情通たちの評価に対する、反骨精神のなせる芸だったのかも知れない。

 この小朝の高座に象徴されるように、5年間にわたり開催されてきた『大銀座落語祭』は、まさに「守る、壊す、つくる」の3つの作業の実践であり、5年目の今年は、その集大成だった。

(記者:石川 雅之)

【関連記事】
石川 雅之さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
落語

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080723-00000004-omn-ent