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2008年07月23日(水) 00時00分

(上)所得の差 普及の差に読売新聞


自宅で地上デジタルテレビを見る北村康子さん。「きれいに映るけど、ビデオ録画の方法が分からなくなった」という

 アナログ放送は2011年7月24日に終了し、地上デジタル放送に完全移行する。残された準備期間はあと3年だが、国民に十分知れ渡っているとは言い難い。問題点を探る。

 東京都青梅市の都営団地で一人暮らしをする北村康子さん(71)は、月16万円の年金暮らし。昨年末、自宅のアナログテレビが故障した。数日間、テレビなしで過ごしたが、「正月のニュースが見られないのはつらい」と近所の電器店で「地上デジタル(地デジ)テレビ」を約10万円で購入した。冠婚葬祭用に取っておいた貯金だが、「アナログテレビを修理しても3年後には使えなくなる」と言われ、無理して地デジテレビを買った一人だ。

 地デジアンテナの接続やアナログビデオとテレビの接続は電器店員がやってくれたものの、いざビデオを使ってみると、うまく録画できない。電器店に電話するとていねいに説明してくれるが、ちんぷんかんぷん。「出張すれば5000円かかる」と言われたため、いまだに録画できないままだ。

 日本民間放送連盟が3月に行った調査によると、地デジ受信機の世帯普及率は43・3%。年収別で見ると、1000万円以上の世帯では6割以上普及しているのに対し、北村さんのように200万円未満では24・2%にとどまっている。

 消費者団体「主婦連合会」の河村真紀子・常任委員は「世の中には数万円の支出さえままならない人がたくさんいるという想像力が、(総務省などの)推進派に欠けている」と指摘する。

 地デジ移行への反発は依然根強い。3年後のアナログ放送終了を周知させるため、NHKは24日から、アナログ放送画面の右上に「アナログ」というロゴマークを常時表示する告知を始める。しかし、視聴者からは「テレビが見づらくなる。不愉快なPR方法で腹立たしい」といった声も上がっている。

 アナログテレビで地デジ放送を見るには「変換チューナー」が必要。総務相の諮問機関である情報通信審議会は6月下旬、アナログ放送を見ている生活保護世帯を対象に、チューナーの無償支給などを盛り込んだ支援策を答申した。また、総務省やデジタル放送推進協会は、5000円程度のチューナーを作るようメーカー側に要望している。

 現在、家電量販店では2万円前後で売られているが、東京都内のある中堅メーカー社長は「今は需要もなく、5000円など無理。売れるとしても、アナログ放送が終わる2011年7月前後の1年間ぐらいで、そんな期間限定商品に、思い切った設備投資はしにくい」と打ち明ける。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080725nt0e.htm