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2008年07月22日(火) 12時43分

読者レビュー◇『技能五輪メダリストの群像』 西澤紘一著オーマイニュース

 2007年11月14日から21日まで、静岡で開かれた「ユニバーサル技能五輪・世界大会」。記者も委員のひとりとして参加し、オーマイニュースにもいくつかの記事を書いた。

 この静岡大会では、日本は過去最多で、かつこの大会参加国中最多の16個の金メダルを獲得し「技術の日本」を世界に知らしめた。また、この技能五輪やそれに至るまでの選手の様子は、NHKなどの番組でいくつか放映された。

 そして、このほど、そのメダリストたちの活躍を詳細に記述した『技能五輪メダリストの群像』という本が出版された。著者は、国内、国外ともに技能五輪の技術代表として活躍された、前職業能力開発総合大学校教授であり、現在は東京理科大学の客員教授を務める西澤紘一氏である。

 本書は、まさにその表題のままの内容だが、24職種競技それぞれに、金メダルのみならず、銀、銅をとった選手の苦労談などが詳細に書かれていて、非常に興味深い本に仕上がっている。そして特筆すべきは、この本の文章は著者の西澤氏が直接各会社や選手を回って、実際に取材をして書いたものということだ。

 通常、こういった書籍を執筆する場合、それなりの地位のある「先生」は、なかなか現場に出向かず、選手と直接話をすることはない。しかし、西澤氏は持ち前のバイタリティーと「現場がすべて」という信条から、自ら現場を回り、本書を書き上げたという。

 また、実際にこの本を手にとると、技能五輪大会で起きたさまざまな不都合、例えば、競技に出した問題の間違いを選手に指摘され修正した、などのトラブルなども正直に書かれており、大会の詳細な記録としても非常に興味深い本に仕上がっている。

 加えて、国ごとの文化の違いが引き起こした大会中の問題や、選手の苦労を呼んだことなども書かれている。例えば、左官の競技などでは、やはり日本の文化ではほかの国に比べて非常に丁寧に仕事をする、というのはよく知られている。また、日本では作業が終了した後、時間に余裕があれば、その作業した場所を掃除する、などのことが自然に行われるが、欧米ではそういう習慣がない。各国の文化の違いをいかに「国際競技」という形でできるだけ公平に評価したか、などの苦労話も詳細に書かれている。

 数日間続けられる競技の合間に、各国の選手が相互にいかにコミュニケーションに力を入れたか、などのエピソードも参加者ごとに詳細に語られており、こういう部分を読むだけでも楽しめる。

 大会でのコミュニケーションの中心になる言語は英語だが、もちろん、競技者はすべて原則として22歳以下、という年齢である。そのため日本人で英語を話せない競技者もいるが、そういう競技者でも、なんとかカタコトの英語で苦労しながら他国の選手とコミュニケーションを積極的に図っている、ということがよくわかる。

 今回の技能五輪国際大会では日本が最多のメダルをとったが、その次にメダルの多かったのは韓国だった。本書にもあちこちに、そんな職種でも強い韓国選手についての記述がある。また、今回の大会で日本、韓国に続いてメダルの多い国はブラジルだ。ブラジルは近年大変な経済成長を遂げている、という背景もあるのだろうが、関係者はブラジルの健闘には目を見張っていた。

 「モノ作り日本」は、健在ではあるが、まだまだかつての勢いを取りもどしたとは言いがたい。しかし、この本を読んでいると、このような時代にあっても、日本と言う国はどこかで技術の継承を、たとえほそぼそとでも地道に行っているということがよくわかる。

 日本の技術、技能について興味のある方のみならず、産業における日本の国際競争力をただしく認識するためにも、ぜひ本書を読む意味があると記者は考えている。

オプトロニクス社
2008年6月22日発行
定価:1800円
320頁

(記者:三田 典玄)

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