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2008年07月20日(日) 09時00分

投資詐欺の実態 巨額エビ養殖詐欺事件で使われた巧妙な手口MONEYzine

■ワールドオーシャンファーム 〜巨額詐欺の手法〜

 ワールドオーシャンファームをご存じだろうか。昨今マスコミを賑わせていたのでご存じの方も多くいることだろう。例の巨額のエビ養殖詐欺、といえばピンとくる方も多いはず。

「フィリピンでエビの養殖事業を行う」「投資すれば1年で元本が倍になる」などと銘打って、約3万5000人から約850億円の資金を集めた例の大規模詐欺事件である。

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 マスコミ等でこの記事を目にした方々は、「何であんなものに騙される人がいるのか」「騙される人も騙される人」などと考えたかもしれない。しかし、詐欺は知的犯罪と言われるように、詐欺師と被害者の知恵比べの性格を有している。そして、同社の詐欺手法も工夫に富んでいるのだ。

■匿名組合を使った資金集めのテクニック

 まず、同社は、資金集めの方法として匿名組合方式を用いている。匿名組合とは、匿名組合員が営業者に出資をなし、その営業より生じる利益の分配を受けることを約束する契約形態をいう。平たく言えば、営業者が匿名組合員から集めた財産を運用して利益をあげ、これを分配するのが匿名組合契約となる。

 匿名組合方式は、出資金を合法的に集めるための手法として、当時投資ファンドなどと呼ばれ頻繁に用いられていた(なお、この手法による出資金集めについてはトラブルが絶えなかったことなどから、現在では金融商品取引法により原則として金融庁及び財務局の監督下に置かれることとされている)。

 このように、同社は匿名組合方式という合法的なスキームを用いていた。仮に、同社が出資法違反など、違法な形での出資金集めを行っているのであれば、出資者が警戒し、これほどまで被害者が増加することはなかっただろう。

 次に、同社は、自らが行っている事業の信用性を増やすために、大規模なパーティ、研修旅行、現地訪問や有名人を広告塔として利用する活動も行っていた。

 しかし、この手法は何も詐欺に限って行われるものではない。同社が行った手法は、一般の詐欺的要素の全くない投資事業を行う企業も信用性を強化する作業として利用している。企業の製品をアピールするために、有名人をテレビCMに用いるのと、原理的には何ら変わらない。

 このように、パーティや研修旅行等を通じて、投資家の猜疑心を緩和し続けたのである。さらに同社は、詐欺を成功させるための工夫を行っていた。

 それは最低投資額として1口10万円と設定している点だ。

「この程度であれば、例え騙されたとしても試してもいいかな」と多くの方が考えるであろう金額を設定している。これが、1口100万円だったとしたら、投資できる人物が極端に限られてしまうことになるし、1口1万円だったとしたら、事務手続きが煩雑となり、管理コストがかさんでしまう。

 その他、同社は、マルチ商法の手法を取り入れて営業活動を行っていたようである。すなわち、出資者を紹介した場合には、紹介者に報奨金や同社内の地位向上を認め、更なる紹介を促す仕組みが採用されていた。このことにより、同社の従業員が積極的に営業活動を行わなくても、各人が自らの報奨金の獲得や地位向上を目指して必死に営業活動を行うこととなった。

 振り返ってみれば、同社の詐欺被害が巨額に及んだ一番の理由は、この点にあったといえる。なお、多くの投資詐欺やマルチ商法と同様に、同社でも集めた出資金の一部を出資者に還元していた。実際に2倍になった出資金を受け取った者は、さらに多額の出資を行うこととなった。また、出資者を紹介して報奨金を受け取った者は、血眼になって出資者を探すこととなった。

■詐欺と健全な投資の見分け方

 さて、同社が行ってきたことをもう一度振り返ってみる。
 合法的な手続を用いるとともに、信用性を強化し、歩合制などを用いて紹介者や口コミ等により積極的な営業活動を行った、ということになろう。実は、これだけを見れば、健全な投資事業と何ら異なるところがないのである。

 また、そもそも投資は必ず成功するものではない。健全な投資事業も失敗に終わることは多々ある。というより、むしろ失敗に終わることの方が多いのではないか。世の中には、ハイリスク・ハイリターンの投資事業も星の数ほど存在している。

 もちろん、健全な投資事業と同社の詐欺事業とは、投資内容の説明に虚偽事実が含まれているか否かという点で異なる。同社では、実際にはエビ養殖の実体は存在していなかったとのことである。この点で、健全な投資事業と詐欺事業は性質を異にするが、第三者が外から見れば詐欺事業か否かは明らかではない。

 それでは、どのようにして詐欺と健全な投資を見分ければ良いのだろうか。
 エビ養殖の実体はなかったとのことであるから、厳密に調査を行ったり現地訪問を行えば詐欺の実態が明らかとなる? そんなことはない。フィリピンで行っている事業について、日本にいながら正確に把握することは困難であるし、実際に投資家が現地訪問を行ったとしても、本当にエビの養殖事業を行っているかはそう簡単には分かるものではない。

 現実にはリスキーな投資事業と投資詐欺を見分けることは非常に困難だ。投資事業の企画者自身が健全な投資事業だと思っていても、後になれば詐欺罪として立件されることもある。そのため、月並みなアドバイスで恐縮ではあるが、投資を行う際にはその出資金を失っても構わないという程度の投資に留めることで、リスクヘッジを図るべきであろう。

 そして、たとえその投資に買っても負けても、熱くなり投資額を上げることを控えるべきなのは言うまでもない。熱くなり、所有する財産の大半をつぎ込む行為は、もはや投資ではなく、ギャンブルと評価される行為となる。

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(横張 清威)

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