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2008年07月20日(日) 23時46分

家を追われ、職もない…サブプライムショック拡大の現実読売新聞

 アメリカの低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」の焦げ付きが、世界の金融市場に激震を与えてからほぼ1年。問題は収束に向かうどころか、拡大の一途をたどっている。

 震源地アメリカでは、家を追われた「ローン難民」が急増し、政府系住宅金融会社までが経営危機に陥った。世界的なインフレも巻き起こし、日本にも、ガソリンや食料品高騰が津波のように押し寄せている。

 「戦後最大の金融危機」の現場を追った。

 「20年暮らした自宅を手放す気持ちが分かるか。もう涙も枯れ果てたよ」

 米東南部ノースカロライナ州の元AP通信記者ウィリアム・トウさん(72)。自らは心臓病を抱え、昨年4月には妻にがんが見つかった。夫婦の闘病資金で、年利11%、月額1368ドル(約14万6000円)のローンが払えなくなった。

 「金利を下げてもらえないか。妻が治療中なんだ」

 ローン会社と何度か交渉したが、相手にされなかった。裁判所に自己破産を申し出て自宅を売却した。妻は今春、亡くなった。

 1988年に自宅を購入した時は、年6%程度の固定金利で30年ローンを組んだ。2000年に借り換えた「サブプライム」は低金利が魅力だったが、数年後にはその金利が跳ね上がる仕組みになっていた。

 8月からは同じ町内で、借家住まいが始まる。トウさんは、「政治家や住宅ローン会社の連中は、私のような生活を一度、経験してみるべきだ」と憤る。

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 ロサンゼルスから車で約1時間。カリフォルニア州リバーサイド郡の高級住宅街には、スプリンクラー付きの芝生の前庭が広がる。しかし、次々に目に飛び込んでくるのは、「差し押さえ物件」「銀行所有」などの立て看板だ。

 「急転直下の出来事でわけがわからない」

 中古のワゴン車の中で一人暮らしを続けるガイ・トレバーさん(53)は悲嘆にくれる。

 04年に四つの寝室がある2階建ての住宅(158平方メートル)を25万ドルで購入、その後、住宅の価値は40万ドルにまで上がった。担保価値が上がったことから06年にローンを借り換えた。返済額は倍に増えたが、「資産価値も上がり続けているので不安はなかった」。

 しかし、住宅の価値は約半分に急落。住宅不況で、インテリア・デザイナーの職も失った。昨年7月、自宅を差し押さえられ、妻と2人の子供とも別居した。「金もないし、仕事もないし、希望もない」

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 「職求む。実務経験あり。MIT(米マサチューセッツ工科大学)卒」

 昨年末に米証券会社を解雇されたジョシュア・パースキーさん(48)は6月下旬、体の前後に手製の「求職看板」を付け、ニューヨーク中心部の金融街を練り歩いた。

 理系では世界最高峰といわれる名門大学を卒業し、証券実務の経験も豊富だが、半年たっても再就職先が見つからない。「妻と5人の子供を養わなければならない。日本の金融機関でもいい」と切実に語る。

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 米抵当銀行協会(MBA)によると、08年1〜3月の「サブプライムローン」での住宅差し押さえ比率は10・74%にのぼる。

 焦げ付きは、貸し手の金融機関に深刻な影響を与える。国際通貨基金(IMF)は4月、サブプライム関連の損失が、09年までに世界全体で9450億ドル(約101兆円)に膨らむとの試算を発表した。日本の国家予算(一般会計約83兆円)を上回る損失額だ。

 損失は米政府系住宅金融会社の連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)にも広がり、米政府が救済に乗り出す事態となっている。

 雇用も直撃された。2007年のアメリカの金融部門の従業員は15万人減った。08年はそれ以上の減少が懸念されている。

 ◆サブプライムローン

 サブプライムとは、「優良(プライム=prime)の下(サブ=sub)」という意味で、収入が少ないなど、通常のローンが借りられない個人を対象としている。最初の2年は年5〜6%の低金利で誘い込み、その後は年7〜15%程度に跳ね上がる。低所得者を中心に利用が増加し、住宅ローン全体の12%を占めるまで成長した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080720-00000038-yom-int