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2008年07月19日(土) 15時01分

<バスジャック>幸運と機転でスピード決着毎日新聞

 「おれにも14歳の子どもがいる」。愛知県の東名高速道路で起きた高速バス乗っ取り事件で、県警の捜査員はそう言って山口県宇部市の中学2年の少年(14)を説得した。通報から少年の身柄確保まで約1時間。少年は県警の調べに「最初から乗客を傷つけるつもりはなかった」と供述しているというが、長引けばどんな事態に展開したか分からない難事件は、幾つかの幸運と乗客や捜査員の機転でスピード決着した。

 「ナイフを持った若い男がいる」。始まりはJR東海バス(名古屋市)に寄せられた1本の電話だった。

 同社の名古屋駅発東京駅行き高速バス「スーパーライナー」号が16日正午に名古屋駅を出発してから約50分後。名古屋インターから東名高速道路に入ったころ、バスに乗り合わせた同社の男性社員(42)が手にナイフを持った少年が運転席に近づくのに気づいた。社員は悟られないように小声で、携帯電話で会社に連絡した。

 同じころ、初動捜査を担当する県警機動捜査隊の車両が別事件の捜査でたまたま高速道の名古屋、豊田東、岡崎の各インター付近にいた。さらに偶然にも、県警捜査1課特殊班と機捜隊が高速道近くの同県日進市で誘拐事件を想定した訓練をしていた。

 県警には会社からバスの詳細なデータが伝えられ、近くに居合わせて指令を受けた各捜査車両が一斉にバスを追いかけた。

 通報から約30分後の午後1時20分ごろ、まず県警高速隊のパトカーがバスを前後に挟み、減速、停止させた。その間に機捜隊や特殊班の覆面パトカーが追いついた。ベテラン捜査員2人が窓越しに少年の説得に当たった。

 「東京に行くんだ」と叫ぶ少年。「分かった。ここは邪魔だから移動しよう」

 捜査員は近くの(美合みあい)パーキングエリアにバスを誘導。バスの周囲には50台を超える警察車両が集結した。別のベテラン捜査員がバスのドア越しに少年を説得した。

 捜査員は「おれにも14歳の子どもがいる」と少年に呼びかけた。少年は「親に見捨てられた」と打ち明けた。「ナイフを置け」。捜査員の説得に応じ、少年は乗員乗客11人を解放した。捜査員らが車内に突入すると、少年は抵抗もしなかった。

 県警幹部は「立てこもりの訓練を重ねている捜査員たちがたまたま県内のいい位置にいた。すべてがいいように働いた」と振り返った。【飯田和樹】

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