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2008年07月18日(金) 12時00分

ナノ粒子とラジオ波を利用、「副作用の無い」ガン治療WIRED VISION

近い将来に放射線治療や化学療法に取って代わるかもしれない、有望な新しいガン治療法が、実際の患者を対象とした臨床試験に近づきつつある。

『Kanzius RF』療法では、微細なナノ粒子をガン細胞に付着させ、人体に害を与えない電波(ラジオ波)を使って体内の腫瘍を「加熱調理」するというものだ。

[ナノ粒子を使わないRF(ラジオ波)療法やマイクロ波療法は、日本を含む世界各地で行なわれている。岡山大学のサイトによると、480kHzのラジオ波電流を発生する針を腫瘍のなかに挿入し、電流を流して腫瘍を加熱するというもの。『Kanzius RF』療法がナノ粒子を利用する理由は、ナノ粒子を使わないRF療法が一部のガンにしか使えないことや、ガン細胞の破壊が完全でない場合がある、などだという。]

『Kanzius RF』療法は、かつてラジオ局やテレビ局で技師として働き、今は退職してペンシルベニアに住む発明家のJohn Kanzius氏が開発した技術を基にしている。周囲の健康な細胞には害を与えず、ガン細胞だけを完全に死滅させる効果があることがわかったという。

この技術は現在、ヒューストンにあるテキサス大学M. D. Andersonガンセンターで試験が行なわれている。

試験を進めるSteve Curley教授は、「人々に間違った期待を抱かせたくはない」と言いながらも、「これでさまざまな種類のガンを治療できるようになる可能性はある」と話している。

放射線治療や化学療法といった治療法は、特に組み合わせて使った場合、多くのガンの治療に大きな効果をもたらすことが証明されているが、一方で有害な副作用が問題となっている。こうした治療では、ガン細胞とともに健康な細胞までが破壊されるのだ。

これに対してKanzius RF療法は、金または炭素のナノ粒子と無害なラジオ波を組み合わせて使用するもので、健康な細胞を冒すことがない。金や炭素のナノ粒子は、医学の世界でかなり前から使われてきている。

研究者たちは、1980年代の半ば以来、ナノ粒子の微小さを活用する新しい治療法の開発に取り組んできた。金や炭素その他の材料で作ったナノ粒子は、血流に乗って体内を移動し、細胞壁を通り抜けることができ、薬剤を効率よく病変部に到達させられるほか、研究用の追跡材料としても利用できる。

ただし、ナノ粒子の安全性に関する多くの疑問(日本語版記事)については、まだ明確な答えが出ていない。にもかかわらず、新しい治療法の確立に向けてナノ粒子が持つ可能性がいま、ガン治療を含め、医学のさまざまな分野で大きな注目を集めている。

M. D. Andersonガンセンターでは、Curley教授率いる研究チームが、ガン細胞を見分ける分子で金のナノ粒子をコーティングする作業を進めている。蛋白質分子にフィルターの役割をさせ、体内のガン細胞だけにナノ粒子が付着するようにするためだ。

「われわれが金に着目したのは、金は米食品医薬品局(FDA)の承認を得ており、人体にも害がないことがわかっているからだ」と語るのは、ニュージャージー・ガン研究所の助教授で、M. D. Andersonガンセンターの研究にも参加しているChristopher Gannon博士だ。

金のナノ粒子が悪性腫瘍の内部に到達したら、ラジオ波を照射してナノ粒子を発熱させ、ガン細胞を熱で破壊する。

動物やヒトの細胞を使ったテストでは、ナノ粒子を注入した悪性腫瘍の細胞はこのRF療法によって100%破壊され、周囲の健康な細胞に害は及ばなかった。

『Cancer』誌2007年12月号に掲載された論文(11月にオンラインで先行して発表(PDF))によると、ナノ粒子を注入され、無線周波数の電磁場にさらされた腫瘍細胞は、処置から48時間以内に死滅し、副作用は確認できなかったという。

『Journal of Nanobiotechnology』誌2008年1月号に発表された研究では、ヒトの膵臓ガン細胞の破壊に100%の効果を発揮し、ここでも特筆すべき副作用はなかったとある。

「これがうまく機能する可能性はある。後は、細かい部分でうまく働くようにしていくだけだ」と、Gannon博士は話す。

問題は、ガン細胞だけに付着し健康な細胞とは結びつかない、ガン細胞だけを見分ける分子を見つけることだ。

Curley教授のチームはすでに「C225」というターゲッティング分子を特定した。C225はFDAに承認されている。C225は多くのガン細胞の中に存在するが、健康な細胞内にもある。

「ガンの種類やナノ分子を付着させるターゲッティング分子によって、効果は変わってくるだろう」と、Curley教授は言っている。

この治療法に使う電波発生装置は、Kanzius氏が開発したものだ。Kanzius氏自身も2003年と2004年に白血病で化学療法を受けている。同氏に取材を申し込んだが、4月13日(米国時間)に米CBSテレビの『60 Minutes』がKanzius RF療法を独占的に取り上げるため、応じられないということだった[放送された番組はこちら]。

「Kanzius氏の装置に触発されて、われわれもターゲッティング・ナノ粒子を作り、臨床に使える治療法として完成させようと考えるようになった」と、Gannon博士は語る。

Kanzius氏は現在、CTスキャナーほどもある、より大型の装置の開発に取り組んでいる。装置はこの夏までに完成する予定で、これがあればもっと大きな実験対象を使って試験することができる。つまり、ヒトを対象に効果を確認する道が開けるわけだ。

自ら「究極の懐疑主義者」と称するCurley教授だが、あと数年もすればこの治療が実際に行なわれるようになると考えているそうだ。

「一番いいシナリオは、3年以内に臨床試験が(開始)できるようになることだ」とCurley教授は述べた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080718-00000002-wvn-sci