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2008年07月18日(金) 19時46分

「自分は自分!」のはずだったんだけど……〜亀山早苗-オーマイニュース

 時代の空気に、人は大きく影響される。最近、周りでやたらと「このままでいいのか」という声が聞かれるようになった。とはいえ、果敢に攻めるわけでもなく、進むも退くもできない状況に陥っている人が多いように見える。

 「私もそうですね。今までがんばって、それなりに自分では楽しんできたつもりだけど、最近は、これでいいのかなあという気持ちが強くなってきました」

 美佳子さん(34歳・仮名)は少し気弱そうな笑顔を見せた。大学卒業後、一度転職して、仕事はやりがいがあるが、プライベートは今ひとつ充実していないと言う。

 「学生時代、友だちだった人と卒業して7年たって再会、つきあうようになりました。もともと友だちだったせいか、ドラマチックなことは何もなく、最近は疎遠になっちゃって……。月に一度くらいですかね、会うのは。惰性で会っているだけのような気がします。まあ、会えば安心感はありますけど」

 だから、ここ数年は、さまざまな男友だちと遊び歩いてきた。ひとりで飲みに行ったり、ひとりでパチンコ屋に行ったりもするという美佳子さんは、すぐに誰とでも仲良くなる。行きつけの飲み屋で知り合った人と、肉体関係をもつことも珍しくなかった。

 「その場のノリで、妙にエロチックな気分になって、そのままホテルに行っちゃったり、相手のマンションに行っちゃったり。それはそれで楽しかったんですけど、なんだか最近、そういうのにも疲れてきたんです。トシかなあ。だからといって、落ち着きたいかと言われると、そうでもないんですが」

 結婚して主婦におさまりたくはない。だが、残業や出張が多い今の仕事に就いていれば、家庭生活がうまくいかなくなるのは目に見えている。主夫がほしいと思うけれど、好きなのは外でばりばりがんばる男性。理想と現実がまったく合わない。

 「さすがに周りでも、どんどん結婚しはじめている。結婚なんてしなくたっていいじゃない、という気持ちがある半面、やっぱり人並みに家庭をもたなくてはいけないのではないかという思いもある。年上の男性と知り合って、エッチするような関係になっても、それ以上、心が通い合うことはない。一緒にいると楽しい女だと思われているから、急に『私、寂しいんだよね』なんて言えなくなってる。それはつきあっている彼に対しても同じですね」

 いつも元気で前向きで、独身生活をひたすら謳歌(おうか)しているキャリアウーマン。周りの見方はそんなところだろうと美佳子さんは感じている。結婚していく女友だちに、そんな気持ちを打ち明けても、わかってもらえないに決まっている。

 「会社で同じような立場の女性も何人かいるんですが、みんなライバルだし、突っ張ってがんばっているから弱音は吐けない。男社会でがんばってきたけど、本当にこれでよかったのか、長くつきあっている彼ともこれでいいのか。もう『これでいいのか症候群』ですね。自分の過去も今も肯定できなくなっている」

 疲れがたまっていると感じて、1カ月ほど休もうかと上司に相談したこともあったが、「本当にそれでいいのか」と言われて撤回した。周りに後れをとりたくなかった。

 仕事も男も、自分の力でゲットしていく。それが自分だと思っていたのに、と美佳子さんはうなだれる。

 人は変わる。いつまでも全速力で突っ走ることはむずかしい。どこかで軌道修正していくことが必要なのではないだろうか。

 気力も体力も、20代と同じようにはいかなくなっている。美佳子さん自身、もうじき35歳という年齢の重みに押しつぶされそうになることがあるという。

 「私の母が35歳のとき、私はすでに10歳だったんですよ。そう考えると、これでいいのかなあと思いますね。年齢なんて関係ない、と言い切れない自分がいる。古い価値観と、それをぶち破ろうとがんばってきた自分との間に、何か大きなギャップを感じるんです」

 自分は自分、と割り切れないもどかしさは誰もが抱えているのかもしれない。男も女も、混沌(こんとん)とした現代を生きている。

(コラムニスト:亀山 早苗)

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