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2008年07月17日(木) 14時57分

NZの人口〜神話と真実ツカサネット新聞

NZの人口問題と持続可能な開発について情報を集めたウェブサイトが公開され、内容が話題になっている。政府と統計局が情報提供しているサイトだ。

中に人口神話なる項目があり、12項目にわたり、実しやかに一般に信じられている噂話をあげて、その真相に迫っている。

【神話1】結婚の半数は離婚で終わる。
NZでは約1万件の離婚と2万件の結婚が毎年行われるそうだが、離婚に関しては、一年の間に同じカップルが離婚と結婚をするわけではないから、単純計算は成り立たないというのが、この神話のウソ。それでも1980年に結婚したカップルの三分の一が銀婚式までに離婚したという。

【神話2】9.11以降、海外在住のNZ人が大挙してNZに帰国した。
アメリカやイギリスに住んでいたNZ人が、9.11以降、安全な故郷NZに戻ってきたとはよく言われている。これは9.11以前の数年間に、海外脱出組の数が急激に増加したことが原因で、海外に出た人が多ければ、自然と帰ってくる人の数も増えるというのが、このホームページの意見だ。

【神話3】NZの有色化
2021年には、マオリが人口の17%、太平洋諸国からの移民が9%、アジア系が15%になるという予測から、17+9+15=41%という数値が出てきて、半数近くが有色人種となるのは、移民法に問題があると、ぶち上げた政治家がいた。
同じ統計では、白人系NZ人は同年には70%になり、人口の中心となるだろうと予測は続く。41+70=111。さらに他の少数の人種が加わるので、計算がめちゃくちゃになる。自分は何人かという質問には、人によって様々な答えが予測され、有色というカテゴリーを作って単純に足し算していくことが、そもそも不可能だ。

【神話4】NZ女性の初産の平均年齢が30歳に上がった。
2005年に第一子を出産した女性の平均年齢は30歳だった。というのは、出産した女性の半数が30歳以下で、半数が30歳以上であるということだ。統計のマジックを統計局が指摘していることに苦笑する。
これだけでは、初産を30歳で経験する女性が多いとは言えない。

【神話5】NZの人口は、移民によってのみ増加する。
人口は、赤ちゃんの誕生と、移民の数が合計されて増加に至る。もしも移民だけが人口増加の理由ならば、生まれてくる子供と死去する人の数が同数か、死者の数が多くなければ計算が合わない。前世紀からNZでは出産率が減り、亡くなる人も減った。赤ん坊も生まれない代わりに、老人が長生きする社会だ。この先1960年代生まれの団塊の世代が老年になるので、この傾向は2040年の中頃までは続くといわれている。

【神話6】2003年に、アジア人妊婦の5人に4人が中絶した
2003年のアジア人妊婦の10人に4人が中絶を選択したというのが本当の数値。これが10代のアジア人女性に限っていうと、妊婦5人に4人が中絶を選択している。中絶は10代の妊娠では選択肢として選ばれる割合が高い。人種にかかわらず、1000人の10代の妊婦に478人が中絶を選んでいる。もちろん表面に出てこないものもたくさんあるのだろうが。

【神話7】男性の平均寿命は女性の寿命より6年短い
1985年から87年の調査によると、男性の平均寿命が71.1歳、女性は77.1歳で、女性のほうが6年寿命が長い。詳細を見ていくと、1950年から52年と2000年から2002年の平均寿命を比べると、女性で71.3歳から81.1歳、男性で67.2歳から76.3歳と伸びているのがわかる。平均寿命の差も縮まってきており、2000年から2002年には4.8歳の差となっている。

【神話8】NZの人口は300万人だが、羊は6千万匹いる
海外にも広く信じられている、羊を使ったジョーク。NZの人口はいまや400万人を超えた。2007年3月で418万人と言われている。一方羊は、2006年6月の数が4100万匹だそうで、人一人に10匹の羊の割合だそうだ。
これがオーストラリアでは、一人に5匹の割合だそうだから、国土の広さを鑑みても、羊ジョークはまだまだ継続しそうだ。

【神話9】頭脳海外流失
頭脳というのは、資格や学位を持ち、NZに必要とされる技術を持つ有能な人材のこと。海外流失というのは、彼らがより良い給与待遇ライフスタイルを求めて、海外に就職先を見つけて脱出。長期にわたって在住してしまう現象。
このサイトでは、この現象が今に始まったことではなく、80年代からめんめんと続いていること。大卒のOE(海外経験を求めて、渡航すること)ですら、数年にわたり海外に滞在することなどをあげている。また、頭脳流失に伴って、移民を受け入れる際のハードルを上げて、技術者を新移民として迎え入れたというが、新移民が連れてくる、技術者とは言えない家族や親族が増加していく問題などにも触れている。

【神話10】少なくとも百万人のNZ人が海外在住である。
各国の調査に基づいた数値では、はっきりしたことはわからない。NZ国内の調査では、一日の人口を見ても、8万人のNZ人が短期旅行中で、4万5千人が長期で海外へ出ている状態という。この中からどの程度帰国するかもはっきりしない。
すでに国内にいる新移民が市民権を申請することで、NZ人の人口が増えることもあるだろうし、彼らがそのまま海外へ出てしまうこともある。人の流動には終わりがなく、正確な数値を出すのは困難だ。

【神話11】現在の人口は過去の全ての人口を上回っている。
このまま人口が増え続けて行けば、いつか人口爆発が起きるぞという意見は、いまだに健在だ。World population clockという米のサイトによると2007年10月の世界人口が66億で、過去の総人口が13.2億程度とのことだから、ざっと半数くらいという計算になる。

【神話12】NZはベビーブームの真っ最中である。
80年代に一時的に少子化現象があり、そこから回復して20年は、母親一人が2人の子供を産むという平均が保たれている。過去のベビーブームと同じ言葉を使うには、少し無理のある状態ともいえる。


このウェブサイトによると、これら12の神話は噂話で、統計は統計にすぎないということのようだ。しかし中には、神話どころか、社会問題になって久しい項目もあり、噂として片付けるには少しテーマが重いものもある。

政治やマーケティング、メディアで統計が使われるたび、時におかしな理論も真実味を帯びて人々の心に無意識に刷り込まれていく。

統計局や政府がいまさら単なる神話ですと言っても、人の心には深く浸透済みなのだ。


参考:
Population and Sustainable Development website



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(記者:大空)

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