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2008年07月15日(火) 11時48分

築地市場移転 都と専門家会議の矛盾(上)オーマイニュース

 東京都の中央卸売市場(=築地市場、東京都中央区)の移転予定地・豊洲(江東区)で深刻な土壌汚染が明らかになっている問題で、都の専門家会議(座長=平田健正・和歌山大学システム工学部教授)は7月13日、用地を使う際にとるべき汚染対策をまとめた報告書案を示した。

 土を盛る前の旧地盤面から下2メートルの土壌をすべて掘削除去し、新しい土と入れ替え、その上に2.5メートルの盛り土をし、さらにアスファルトやコンクリート床で覆うとした内容。

 そのほかに

・各街区の周縁部と建物の周囲に矢板を打ち込み、汚染物質の移動を防止
・掘削除去したところより下の部分も、操業由来による汚染が処理基準を超える土壌は処理
・地下水の浄化や管理

を盛り込んだ。

 また、日常的な管理として、

・地下水位のモニタリングや盛土・被覆の表面にくぼみや段差、陥没、亀裂がないかなどを定期点検する
・地震で液状化現象が起こり土壌や地下水が噴出した場合には、速やかに回収。環境の状況を把握した上で適切に処理する
・土地の管理者や利用者、学識経験者が入った管理協議会を設置し、長期的なリスク管理をはかることも有効

と提言した。

 ただ、これらは土地を利用する際に前提となる対策に過ぎない。実際に建物を建てるときや、地震の液状化対策には、さらなる対策をとる必要がある。

 平田座長や駒井武委員(独立行政法人産業技術総合研究所)は、会議後の質疑応答や記者会見でこの点に触れ、

 「私たちが行ったボーリング調査では、不透水層に穴を開けないよう、その上の深さまでにとどめたが、建物を建てるときはその層を貫いてさらに下まで杭を打ち込むことになる。そのときは、杭によって汚染が下へ移動しないよう、その深さまでの汚染調査と汚染物質処理が必要になる」

 「市場が移転する場合は、建物建設のため、直径70センチの杭を1.5〜1.7メートル間隔で打つことになると聞いている」

 「個人的な考えだが、液状化対策では、用地の一部では地下にセメントを流し込んで固めるくらいの対策が必要になる」(平田座長)

と、実際に工事を進めるには膨大な手間と費用がかかることを示唆した。

 平田座長はさらに、土壌汚染対策法の改正案が参議院を通っていることにも言及。

 「改正案が成立すれば、豊洲の市場用地は汚染指定区域になる。指定を外すには汚染対策をしてから2年間待ち、汚染が大丈夫か確認されなければ、工事はできない」

と、市場移転計画には別の不安定要素があることを指摘した。

 専門家会議は次回(7月26日)で最終回。このときは傍聴者250人が入る講堂で開催し、傍聴者との意見交換をメインにするという。報告書への意見もメールなどで募集する。

 会見終了後、平田座長は記者の取材に対し、

 「この汚染対策は、やるとなると厳しい内容。ここに建物を造るのは不可能ではないが、やる人にとってつらいことになる。相当なお金と時間がかかるが、かけるのが嫌ならば(市場建設・移転を)やらなければいいんです」

と話した。

■都の独自策に座長が疑問符、都と専門家会議に認識のズレも

 一方、報告書では、提言に加える都の独自策として、都の環境確保条例をもとに、「専門家会議が対象としなかった(地下水の環境基準を超過した)」1034地点で新たにボーリングによる絞り込み調査を行うことを明らかにした。

 絞り込み調査はすでに441地点で行っているが、それに上乗せするかたち。そこで汚染が確認された場合にも、報告書の提言と同じレベルの汚染対策をするとしている。

 これに対し平田座長は、「そうすれば漏れ(汚染の見逃し)はなくなると思う」としながらも、個人の意見として、

 「汚染対策は報告書の内容で十分やれると考えているし、ボーリングの数を増やしたからと言って、深さ方向の調査にはならないから、あまり意味がないのでは。都の環境確保条例に則った調査は必要かどうか」

と言葉を濁しながらコメントし、当局との考えのずれを隠そうとしなかった。

 築地市場の移転予定地となっている豊洲の用地は、かつて東京ガスの工場があった土地。1956年から32年間、都市ガスが製造・供給され、前半約20年間は、石炭ガス製造の過程でベンゼンやシアン化合物などの有害物質が生成されていた。

 東京ガスがある程度の処理を行ったものの、それら操業由来の汚染物質はいまも地下深くに眠ったままだ。専門家会議が昨年から行った調査では、環境基準の4万3000倍という高濃度のベンゼンなどが確認されている。

(記者:軸丸 靖子)

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