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2008年07月15日(火) 16時00分

41年目の「真実」:布川事件再審開始へ/上 目撃証言 /茨城毎日新聞

 利根町布川で67年、大工の男性が殺害され、現金を奪われた「布川事件」で、東京高裁は14日、再審開始を支持する決定を出した。強盗殺人罪に問われ、無期懲役が確定した桜井昌司さん(61)、杉山卓男さん(61)の再審が始まる公算が大きくなった。自白の強要、供述の誘導、証拠隠し……。「冤罪(えんざい)の典型」という指摘もある事件の「真実」はどこにあるのか。41年目の夏、改めて現場を歩き、関係者の話に耳を傾けた。
 ◇捜査員の「誘導だった」
 当時、利根町に住んでいた桜井さん、杉山さんは「若い暴れん坊」(近隣住民)だった。アリバイがはっきりしないため、ほどなく捜査線上に浮上。県警は2人を「本命視」した捜査を展開していく。
 後の裁判で2人は有罪と認定されるが、決め手の一つだった重要な証拠がある。「目撃証言」だ。確定裁判の記録によると67年8月28日午後7〜8時、つまり犯行直前の時間帯に、複数の住民が2人を目撃したことになっている。
 2人は本当に現場にいたのか。県警に証言をした男性(53)に話を聞くことができた。当時、中学1年生だった男性によると、午後7時半ごろ、自転車で被害者の玉村象天(しょうてん)さん(当時62歳)方を通り過ぎた際、勝手口に1人、塀の前に1人、男がいたのを見た。
 それが誰なのかは「薄暗くてはっきりとは分からなかった」が、捜査員に「うち1人は杉山じゃなかったか」と聞かれ「そうかもしれない」と答えてしまったという。「見たなんて言わなければ良かった。今思えば誘導なんだっぺな」と男性は悔いる。
 この男性の母親(75)は、玉村さん方の前にいた2人の男が桜井さん、杉山さんではないと言い切る。野菜の仕入れで午後7時過ぎに現場を通り掛かり、2人の男の影を見たという。「杉山さんとは別の顔だ。警察にも(杉山さんは)見てねえって言ったんだけど」。弁護団は検察側に母親の調書の開示を求めた。長らく実現せず、第2次再審請求審になって、ようやく開示に応じた。
 「(この母親が)目撃した男の容姿・着衣等は当時の請求人(桜井さん、杉山さん)のものとはかなり異なる」「(検察側の目撃証言は)信用性に重大な疑問があるといわなければならない」。再審開始を支持した東京高裁は、理由の一つをこう説明している。
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 千葉県との県境を流れる利根川のほとりの集落。玉村さんの自宅跡は商店街の一角にあった。にぎわっていた往時の面影はなく、シャッターが下りた店や民家が建ち並ぶ通りに変わっていた。玉村さん宅も今は理髪店になり、事件の痕跡は見あたらない。近くに住む親類の玉村明さん(90)は「もう古いことでどうしようもない。再審になっても、事件の本当のとこは誰も分からない」と話した。

7月15日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080715-00000160-mailo-l08